今ならフェルメールの「牛乳を注ぐ女」の背後に回り込める!? 凸版印刷のVRが想像以上にすごかった。
写真・文 クロワッサンオンライン
現存するのはわずか35点と言われるフェルメール作品のうち、実に9点が東京に上陸した日本史上最大の「フェルメール展」が2019年2月3日(日)まで上野の森美術館で開催中。
来日した作品の中で、とくに今回の展覧会のアイコン的作品と言えるのが、ポスターや図録の表紙、オリジナルグッズでミッフィーとコラボもこなす代表作のひとつ「牛乳を注ぐ女」(1658-1660年頃)です。
この不思議な鑑賞体験ができるのは、東京の文京区にある印刷博物館。2019年3月31日(日)まで期間限定で凸版印刷独自のVR技術で3次元化された「牛乳を注ぐ女」を公開しています。コントローラーをぐるぐると動かせば、絵画の構図を自在に変えられるほか、本来は描かれていない頭上や背中、足元なども鑑賞OK。絵筆のタッチまで精密に再現されたフェルメールの絵画作品が動き出す瞬間は「おお!」と思わず声が出るレベルの驚き。
今どきはCGクリエーターがさくっと作れてしまうんでしょこういうの……と思われがちですが、さにあらず。このViewPaint版「牛乳を注ぐ女」の驚くほどのリアリティは、技術だけではなく、膨大な調査データから生み出されたもの。
たとえば、この女性がいる部屋についても、調査の上、最も信憑性の高い説であるオランダ、デルフトにあったフェルメールの「アトリエ」に設定。先行研究による設計図をもとに空間をほぼ実物どおりに再現。特徴的な形のテーブルについても、この地域に実在したものか調べたり、描かれた壺と同じものをオランダの博物館に当たって色や形を再現するというこだわりぶり。フェルメール研究の大家でもある目白大学の小林頼子教授の監修のもと、徹底的に学術的にアプローチして完成した、もはや研究資料とでも言うべきVR作品なのです。CGで作るため画像が鮮明になりすぎぬよう、輪郭線につねにボケが入るように工夫しフェルメールならではの絵筆のタッチも再現。
凸版印刷がVRの開発を始めたのは1997年。当初は江戸城などもう失われてしまった建築や、経年劣化により当初の姿が見えにくくなった文化財などを技術の力で甦らせ、体験してほしいという願いから始まったプロジェクトでした。以来約20年のあいだ、絵画を3次元化したのはこのフェルメール作品だけなのだそう。
「本当はゴッホやモネにもトライしたいですが、これまでの技術のノウハウとマッチングしやすかったのは写実的であり透視図法(遠近法)を用いていてロジカルに三次元化できるフェルメール作品でした」と、開発を担当した凸版印刷の奥窪宏太さん。実はもう10年も前に完成していたというVR版「牛乳を注ぐ女」。研究試作として制作され、一般向けの公開はほとんど行っていなかったのですが、今回フェルメール展をきっかけに都内では初めて一般公開となりました。iPhoneアプリでも公開されているそうなのでそちらで手軽にチェックもおすすめ。
なぜ絵画を3次元化したかというと、今までにない絵画の鑑賞方法や、教育にも生かせそうだと考えたからだとか。美術の授業で「たとえば君ならどんなアングルにする?」なんていう問いも可能。さんざんいじってみたものの、やはりこれが完璧な構図、フェルメールはやっぱりすごい! と気づかせてくれる授業なんて楽しそうですね。
印刷博物館にはVRシアターもあり、凸版のVRで甦ったさまざまな文化財や史跡などを鑑賞可能。現在は「プランタン=モレトゥス博物館」を公開中。ベルギーのアントワープにある16世紀以来の印刷所を保存する世界最古の印刷・出版博物館をCGでリアルに再現しています。こちらもぜひ、体験してみては?(クロワッサンオンライン のぐぽん)
のぐぽん
『クロワッサン オンライン』ディレクター。戦国武将から昭和の名建築まで、ちょっと昔のものにときめきがち。痩せようと思って始めた筋トレなのになんだかガッチリ体型になってきたような…というのが最近の悩み。インターネットと連ドラと猫と旅行が大好きです。
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