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背景も変えずに噺家が“演じ分け”出来る理由。│柳家三三「きょうも落語日和」

イラストレーション・勝田 文

背景も変えずに噺家が“演じ分け”出来る理由。│柳家三三「きょうも落語日和」

座布団に座っておしゃべりをする私たち噺家は、どんな場面でも――家の中のシーンだろうと、江戸や大阪(坂)、地獄と極楽、春夏秋冬、朝昼晩――動くことなく、背景も使わず演じてしまいます。落語家の演技力ってすごいですねって? いえいえ違うんです。お客様の想像力を、他の芸能よりたくさんたくさん、お借りしているだけなんです。

何しろ登場人物がどれだけ大勢出て来ても、演者は一人。もちろん衣装もメークも変えるわけではありません。そして意外に思われるかもしれませんが“声”を変えることも極力避けながら演じ分けるのです。演じ分けるときの要素として“声”や“口調”の変化で判別してもらおうという意識は一割ほどでしょうか。四割を占めるのが“顔の向き”です。

「え? そんな子供だましと言えるほど当たり前のこと?」と思われるかもしれませんが、とても重要なんですよ。お客様から見て噺家が右を向いてしゃべっているときは身分・立場が低いか屋外にいる人を演じています。逆に左を向いているときは身分・立場が上位か家の中にいる人です。これを覚えておくだけで、皆さんの想像力は飛躍的に働きを増してくれるはず。

ところで演じ分けの割合、五割にしかなっていませんよね。あとの五割は“登場人物の気持ちになり切ること”。どうかするとこれが全てと言ってもいいくらい。登場する人々の肚(はら)、料簡(りょうけん)になり切れば自然とそれらしく感じていただけます。顔の向きが判らないラジオでもごきげんな落語日和を楽しめるのはそのためなんですよ。

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』987号より

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