高座の座布団に 込められた願いとは?│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
寄席にご来場くださるお客さまとは、その日その場でしか聞いていただくことのできない落語を通して、貴重なご縁ができたことになります。その縁を長く続くものにしたい、という思いが込められているのが、高座で敷いている座布団なのです。どうしてだかおわかりですか?
まず一般的な座布団の構造をお話しします。長方形の布を半分に折ってほぼ正方形にし、二枚の布が重なった間に綿を詰め、三方の辺を縫ってできあがり。四辺を縫わずに済むのは半分に折ったところが一辺になるから、というのはご理解いただけますね?
高座で私たち噺家は、必ずこの縫い目のない辺がお客席のほうを向くように座布団を置いて座ります。つまり、縁の“切れ目がない”ように、という願いを込めて。
一席終わって次の演者が出る前に、前座が座布団をくるりとひっくり返して“サラの座布団ですよ”ということを表すのが「高座返し」という作業。このときも縫い目のない辺がお客席方向を向いたままの状態がキープされるように裏返すのが決まり。ただ地方の落語会で主催者のかたが準備してくださったのが二枚の布を重ね合わせた、四辺に縫い目のある布団だったりもします。そのときは全く気にしません。ある物をありがたく使わせていただきます。ときとして「立派なものを」と、お寺さんの錦のピカピカ光った布団なんてことも。落語でなく、いきなり「法事日和」になっちゃったりします。それでもいいんです。座布団だからといって四角四面に考えず、丸く納めるのがいちばんですから。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』986号より
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