【しりあがり寿×渡辺晋輔】知れば知るほど、面白い。「ルーベンス展」を攻略する。
撮影・谷 尚樹 文・黒澤 彩 漫画・しりあがり寿
ルーベンスと聞いて、思い浮かぶのは? そう、アニメ『フランダースの犬』で、主人公の少年ネロがいつか見たいと願い続け、最期についに目にすることのできたのが、アントウェルペン大聖堂にあるルーベンスの祭壇画。なぜ、ネロはそれほどにこの絵を見たかったのか? ヨーロッパでは絶大な人気を誇る画家の魅力を、漫画家のしりあがり寿さんが探ります。教えてくれるのは、『ルーベンス展』を監修した国立西洋美術館の渡辺晋輔さん。まずは、しりあがりさんが抱くルーベンスのイメージを聞いてみました。
しりあがり寿さん(以下、しりあがり) ヨーロッパ美術史上の名画を「泰西名画」って言いますよね。ルーベンスはその代表という感じがします。かつて美大の卒業制作を考えていたときに、銭湯の壁画を泰西名画風に描いたら面白いんじゃないかと思って。ほら、裸の絵が多いでしょう? その裸の人たちにタオルを持たせたらいいんじゃないかと。そのとき元ネタにしようとしていたのがルーベンスの絵だったのですが、到底まねできそうもないから、やめました。
渡辺晋輔さん(以下、渡辺) たしかに代表的な泰西名画ですね。とくに後の時代、19世紀頃までのヨーロッパ美術に大きな影響を与えました。それだけルーベンスの絵画には普遍性があるということです。なぜ普遍かといえば、古代の文化やキリスト教といった、ヨーロッパの背骨ともいえるクラシックなテーマを取り入れつつ、新しい表現を生み出したから。ルーベンスを見れば、ヨーロッパ文化のメインストリームがわかる。まさに王道です。
【ルーベンスのミニ知識 1】ルーベンスとはどんな画家?
ペーテル・パウル・ルーベンス(1577〜1640)は、当時はスペインが統治した、現在のベルギー西部を中心とする地域にあたるフランドル地方の画家。由緒ある家柄に生まれ、高度な教育を受けて育った。両親の故郷、アントウェルペンで画家に師事して絵の基礎を学び、1600年から’08年までイタリアに滞在。当時、美術の中心だったイタリアで古代美術やルネサンス美術をはじめ、カラヴァッジョなど同時代の画家の作風も熱心に吸収した。アントウェルペンに戻って宮廷画家になると、大規模な工房を経営して絵画や版画を制作しながら、外交官としても活躍。スペイン、イギリスなどに赴き、ヨーロッパの平和のために奔走した。
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