高校生だった頃に抱いていた 忘れかけていた感情がよみがえる。映画『ここは退屈迎えに来て』(文・嶌 陽子) | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン
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高校生だった頃に抱いていた 忘れかけていた感情がよみがえる。映画『ここは退屈迎えに来て』(文・嶌 陽子)

  • 文・嶌 陽子

失恋、友だちとのケンカ、憧れの人を前にした緊張……。長年忘れていた、高校時代の思い出がよみがえる。映画『ここは退屈迎えに来て』は、青春の記憶の蓋を開ける映画だ。

本作は、作家・山内マリコが2012年に鮮烈デビューを飾った同名小説が原作。27歳の「私」は、10年間東京で暮らした後、なんとなく地元に戻ってきた。高校時代の友人、サツキと、当時みんなの憧れの的だった椎名に会いに行くことに。一方、地元に残った「あたし」は、元カレの椎名のことが忘れられない――。

ラスト近く、渡辺大知演じる新保が、歌いながら原付バイクで街を走るシーンは印象的。

「私」と「あたし」、そして椎名を軸に、3人を取り巻くさまざまな人物が登場。いつも人の輪の中心にいる椎名をまぶしく見つめる高校時代の「私」。高校卒業後、地元を去って行った椎名をあきらめきれず、かといって行動を起こせない「あたし」。ここは自分のいる場所ではないと思い、東京への思いを募らせる椎名の妹。椎名と取り巻きたちを冷ややかに見つめる同級生の女の子。自分の思いを誰にも打ち明けられず、苦悩する青年。そして、みんなのスターだった時代を経た、椎名のその後。高校時代と現在など、さまざまな時間軸を行き来しながら、それぞれの「昔」と「今」の思いがこまやかに描かれる。多様な登場人物のどこかに、自分と重なる部分を見つけるのは、そう難しいことではないだろう。橋本愛、門脇麦、成田凌をはじめ、注目の若手俳優たちのみずみずしい演技によって、若者たちの日常がリアルに迫ってくる。

不思議と周囲の人をひきつける椎名(中央)を、注目の若手、成田凌が演じる。

冒頭から強い印象を残し、全篇を通じて登場するのは、両脇にファミレスやパチンコ店、量販店が立つ国道の風景。どの地方都市にも見られる景色が、それぞれの登場人物のやるせない思いをいっそう際立たせる。地方都市で悶々とした高校時代を送った経験のある人なら、特にぐっとくるのではないだろうか。

一方、ずっと都会で過ごしてきたという人の胸にも、本作は深く響くはず。高校時代特有の、なんともいえない退屈さやもどかしさ。まだ見ぬ「ここではないどこか」へと馳せる、ぼんやりとした思い。そんな中、時折訪れる、夢のようなきらきらとした時間。当時、誰もが感じたであろう、普遍的な感覚や経験が描かれ、観る者一人ひとりの心に、ひりひりとした感覚を呼び覚ます。

『ここは退屈迎えに来て』
監督:廣木隆一 脚本:櫻井智也 原作:山内マリコ 出演:橋本愛、門脇麦、成田凌ほか 音楽:フジファブリック 新宿バルト9、横浜ブルク13ほかにて公開中。
http://taikutsu.jp/
(C)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

『クロワッサン』984号より

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