くらし

【紫原明子のお悩み相談】60代、職場のパワハラで心がズタズタです。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>

同じ職場の50代女性のパワハラに心がズタズタになっています。 私は60歳の定年で一度切られたので今は契約社員という立場で彼女は正社員です。
「それこの前も言いましたよ!!」
「○○はせんでくださいって言うたやないですか!!」
ちょっとしたミスに対しての言動が雷を落とすがごとくの心に突き刺さるような言い方で、いわゆるパワハラです。彼女自身はきつく言っているつもりはない、と思っているのでしょうが言われるこちらにしたら彼女の言動は心にぐさりと突き刺さるのです。
同じ職場にいる30代や他の60代にはそれほどきつい物言いはしません、私にだけです。私がどんくさいから彼女にしたら腹が立つというのかもしれませんが……。 泣いたことも何度もあるし眠れないことも何度もあります。
もの言いのきつい人との対処法はどうしたらいいのでしょうか? 今は出勤してきた彼女の小太りな後ろ姿を見るだけでも膝が震えます。気弱な還暦過ぎオバサンに救いの手を。
(相談者:komekko/62歳 介護職員、子供達も巣立ち今は主人と二人暮らしです )

紫原明子さんの回答

komekkoさんこんにちは。
もう随分前にご相談をいただいていたのに、お返事に時間がかかってしまってごめんなさい。その後、職場での様子はいかがですか?

ずっとkomekkoさんのことを心配していました。
とても難しい問題だと思います。komekkoさんのお住まいの地域や経済状況によっても、とり得る選択肢は大きく変わってくるのでしょう。シニア世代の求人が多くある地域にお住まいだとか、一時的にkomekkoさんの収入が途絶えても生活が成り立つような経済状況にあるとかいうのであれば、転職を考えられたり、あるいは辞めたって構わないんだぞという気概で、いっそ大きな態度に出てみたって良いのかもしれないと思います。何しろ足の震えや不眠など、体に不調をきたしていらっしゃるということなので、相当なストレスの中にいらっしゃるのでしょう。

しかし地方なんかの場合、そうそう働き先の選択肢がないこともありますからね。komekkoさんももしかしたら、辞めたくても辞められない、なんとか今の会社でやっていくほかないという状況に置かれていらっしゃるのかもしれません。

ただいずれにしても、このままkomekkoさんに強いストレスがかかり続ければ、心や体の不調が徐々に大きくなっていって、ともすれば重い心の病気の引き金となるかもしれません。そうなれば、転職先があろうとなかろうと、仕事そのものがままならなくなってしまうことも起こり得ます。ですから、やはり今回はすこしだけ頑張って、憎い相手と戦う方法を考えなければならないと思います。komekkoさんは、ご自身を気弱な性格と仰っていますし、本当ならあまり戦いを好まれないのだろうと思います。私だって、人に無理を強いるのはあまり気が進まないのですが、比較的実行しやすい方法を考えてみました。何も、胸ぐらつかんでやりましょうとか、相手の頭から水をぶっかけてやりましょうとか、そういうことをオススメするわけではないのでどうぞ安心してください。

じゃあ早速ですが、一体どう戦うかといいますと、やるべきことは大きく2つあります。

1つ目。まず、例によって相手が顔を真赤にして文句を言ってきたとき、とりあえず黙って聞いてやって、ひとしきり言い終わったなと思ったらこう言ってください。
「◯◯さん、教えてくださって本当に助かりました。ありがとうございます」 できればゆっくり、堂々と、相手の目を見ながら、余裕を醸しつつ言うのです。 そんなこと?と思われるかもしれませんが、実は余裕のあるお礼というのは、一発かますだけで精神的に相手の優位に立つことができる、極めて効果的な方法なのです。

そもそも人から教えや施しを受けるというのは、人の力を借りるということです。人の力を借りるというのは、言いかえれば相手に借りを作るってことです。ですから、実は必ずしも自分にとって気持ちのいいことでもありません。でも、だからこそ、人に借りている状態に耐えられる人というのは、実は世間では、人間の器が大きい人と評価されることが多いのです。考えてみてください。人を使うのがうまい人、自分だけで作業を完結させない人ほど周りの人間に一目置かれたり、信頼されたり、リーダーに抜擢されたりしてませんか?

ですから、うるさく注意してきた社員に「ありがとう」と感謝の言葉を伝えるということは、相手が自己満足のために発していたお小言を自動的にkomekkoさんへの施しに変え、あなたは貢ぐ人、私は貢がれる人、というように、暗に相手の一歩高みに登ることができます。いわゆる“マウンティング”としての効果を発揮するのです。しかしそれでいてこのお礼マウンティングは、ほかのマウンティング行動とは異なり、相手を嫌な気分にさせません。むしろ相手を少しだけいい気分にさせながら自分に一目置かせることもできる、うまくいけば一挙両得の戦法なのです。 ですから、何かうるさいことを言われたら都度「ありがとうございます」と伝えてみてください。それが最大の攻撃です。繰り返しているうちに、口うるさい社員の方がそのうち、komekkoさんのために力を尽くし働くことに喜びを感じ始めるかもしれませんし、さすがにそれが難しくとも、この人には何を言っても「ありがとうございます」と自分の糧にされてしまう、暖簾に腕押しだと、相手に思わせることくらいはできるかもしれません。

そして2つ目の戦い方ですが、やはり何をおいても、パワハラの証拠を集めておきましょう。
1の方法で相手がkomekkoさんをいびることにさじを投げてくれれば良いのですが、やはり残念ながらそう簡単にいくとも限りません。長期戦となれば、相手がパワハラをやめる前に、komekkoさんの心が音を上げてしまわないとも言い切れません。ですからいざというときしかるべき手段が取れるように、ICレコーダーを持ち歩いてパワハラ発言を録音したり、パワハラがあったと証言してくれる仲間を作ったりしておきましょう。その上で、まずは上司に被害を訴えてみる。それでも何の対処もなされなかったり、逆にkomekkoさんが不当な処遇を受けたりしたら、市区町村の無料法律相談や、厚生労働省の総合労働相談コーナーに電話をかけて、法的措置を取る場合どういうプロセスを辿るか、有効な証拠や手続きについて相談してください。

ひとつだけくれぐれも大事なことは、決して我慢しすぎないことです。まだ大丈夫、まだ我慢できる、と思っているうちに、戦ったり、環境を変えようとする気力がゼロになってしまうことがあります。だからできれば上記の1と2は、ぜひすぐにでも始めてみてください。

気が弱くたって、気が弱い人なりの戦法で。 すこしずつ状況を変えていきましょう。

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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