「文脈棚」という陳列をしている本屋さんが好きだ。多くの本屋さんは、ジャンル別やサイズ別や著者名のアイウエオ順で本を並べているけれど、文脈棚はそういうルールを取り払って自在である。棚に並ぶ本を一冊ずつ見ていくと、書店員さんの連想ゲームをのぞいているような気持ちになる。「お、この本の隣にこの本が!」とニヤニヤしているうちにずいぶん長い時間を費やしてしまう。プロレスとか遺伝子とか神話とか、ふだんだったらスルーしている分野の本も、文脈棚の流れで目に飛び込んでくるとつい手が伸びる。うっかり何冊も購入しそうになるから危ないったらない。
「夢のかけら」というテーマで編まれた写真展はまさに文脈棚だった。そこに並んだ写真は、作家も撮影時期もモチーフもてんでばらばら。1900年代のパリがあり、孵化直前のブリの卵の接写があり、本土復帰前の糸満漁港があり、林ナツミは改札口で飛んでいる。つまりこれは「夢のかけら」から始まる、東京都写真美術館の学芸員さんによる連想ゲームなのだなぁ。ニヤニヤ。
写真を見ているうちに、面白い遊びを思いついた。題して「写真呑み」。1枚の写真を選び、それに合った酒を呑みながら鑑賞するのだ。土門拳には芳醇な純米酒、ユージン・スミスにはバーボンソーダ、植田正治の家族写真にはジンライム……。バーのカウンターで1枚の写真を出し、「このイメージのカクテルを」ってオーダーしたら一体どんな連想ゲームが始まるのやら。