くらし

スポーツの祭典に接して、“美術系″の私が思うこと。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

「美術系の大学と体育会系の大学、卒業後、どちらが潰しがきくか」というような記事を読んだ。その記事の著者はそれぞれ一人ずつにしかインタビューしていないようで、そのインタビューされたそれぞれの現在の年収で体育会系に軍配があがる、というナンセンスな記事だった。私は体育会系大学のことはよく知らないからなんとも言えないが、美術系の大学を出た私にとっては、インタビューに答えた美術系の佐野さん(仮名・35歳)の言葉からは、自分のことを棚にあげて上手くいっている人を見てひがんでいる人物像が想像でき、「この人はどんな大学を出たとしてもうだつが上がらないだろうな……」と思った。

佐野さんの言葉が実際に語られた言葉かどうかということには疑問が残るが、美術系出身者に対するイメージを凝縮したものが「佐野さん」であることは頷ける。かくいう私も、美術を生業にしていくことの難しさを感じつつ、盛り上がるスポーツの祭典を見て、ひがむ気持ちがないとは言えない。

今年のワールドカップは多くの人に感動を残した。日本の試合が終わった直後、私はパリにいて、サッカー日本代表の戦いっぷりのおかげで、日本人であることを誇らしく感じていた。そして、決勝戦のフランス対クロアチア戦の日、フランス人と一緒にゲームを楽しんだ。パリの街には、多くの人が溢れかえり、勝利を手にしたときには、異常と言えるほど、街が喜びに沸き返った。私が目にしただけでもものすごい人数が、「人生で一番幸せな日」とでも言うように雄叫びを上げながら喜びを表現する。こんな人数の人たちがこれだけ動かされるというのは、サッカーは人々の気持ちだけでなく、経済も大きく動かし、取り囲むスポーツ関係の仕事の量は、美術とは比にならないということだ。世界に感動を与え、経済にも寄与できる体育会系のパワーを目の当たりにした。あの100分の1でも、いや、1000分の1でもいい、その力を美術に分けてほしい。そう思いませんか、佐野さん(仮名)。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は https://www.facebook.com/imostudio.imo/

『クロワッサン』980号より

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