【陶芸家と布作家の夫妻の食卓】大きな蒸し器にほかほかパン、 朝採れ野菜で1日が動きだす。
撮影・三東サイ
蒸したパンを囲めば 朝から会話も弾む。
「ウチでは、朝のパンは蒸して食べるんです」
『かまパン』の米粉入りバゲットを切り分けながら早川さんが話し始める。
「弟子を含めてウチは大人数で朝ごはんを囲むことが多かったので、みんな一緒にあたたかいパンを食べる方法はないかと考えたんです」
トーストだと、一度に焼ける量が限られているので、どうしても全員が一斉に焼きたてのパンとおかずにありつくことができない。
「蒸すことで、素材の味や旨みを引き出したり、ふわふわ、もちもちした食感も味わえます」
使いこんだ2段式の大きな蒸し器にカットしたパンを並べながら、早川さんが続ける。コンロにかけた鉄鍋の上に蒸し器を置いて約10分。蒸し器の蓋を取ると、パンの香りがあたりいっぱいに広がる。
「テッペイ、食べれるよ!」
早川さんは小野さんに声をかけると蒸し器を食卓に移動させる。この日の小野家の朝食は夫妻以外にキョウさん、小野さんの弟子で台湾出身のハンさん、長男で陶芸家の象平さんの総勢5人。
木目が美しい床に敷いた布の上には、小野さんの器に盛った料理が並ぶ。その中央にどんと置かれたのが、蒸し器に入った6種類のパン。めいめいの皿に取り分けながら食べるのが小野家の朝食スタイルだ。
たとえ残ってしまっても、 翌日に美味しく食べられる。
『かまパン』の食パンにバターと杏ジャムをつけて食べているキョウさんと、『パラダイス アレイ』のパンにハチミツを組み合わせたハンさんは、蒸してパンを食べるのは初めての体験。ふたりとも「焼いたパンより美味しいです」と笑顔で話す。
象平さんの記憶によると、パンを蒸すようになったのは、早川さんが、小野さんの薪の窯焚きで年4回ほど器を登り窯で焼き上げる仕事の手伝いをしていた際に考えたのがきっかけだという。3日3晩、窯を見守りながら器を焼くこの作業は、多くの人の手が必要になる。その際に手軽にできる「パンを蒸すこと」を始めたようだ。
「短時間で大量にできて、それでいて美味しいからね」
と早川さんが言えば、小野さんは、
「蒸したパンは、残ってしまっても、翌日もう一度蒸せばまた美味しく食べられるしね」
と答える。一度ふかふかにしたパンを食卓に置けば、誰もが席を外すこともないし、会話も弾む。小野さんと早川さんは、春の息吹を感じる外の光景を時に眺めながら、朝から軽やかで健やかな一日を迎えている。
自家発酵種のパンが並ぶ おすすめの2店。
小野哲平(おの・てっぺい)●陶芸家。1958年、愛媛県生まれ。備前、沖縄・知花、常滑で陶芸を学び独立。1998年から高知・谷相に移住して作陶を続ける。今後の展覧会等はhttp://www.une-une.com
早川ユミさん(はやかわ・ゆみ)●布作家。1957年生まれ。アジアの手紡ぎ、手織り布、藍などの草木染めや泥染めの布で衣服を作り、各地で展覧会を開催。近著『野生のおくりもの』(アノニマ・スタジオ)。
『クロワッサン』971号より
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