くらし

『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』著者、沖田瑞穂さんインタビュー。怖い女の原型は、再生産し続ける。

おきた・みずほ●1977年、神戸生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻博士後期課程修了。中央大学、日本女子大学等の非常勤講師。専攻はインド神話、比較神話。著書に『マハーバーラタの神話学』、共著に『世界女神大事典』。

撮影・青木和義

本来はインド神話を専門とする研究者である沖田瑞穂さんが、副題に謳うとおり、各国の古典神話はもちろん、怪談、ホラー小説や漫画、都市伝説までも渉猟し、女性性の恐ろしさに迫った。最初に登場するのが、口裂け女である。

「大学で神話学の授業を受け持っているのですが、知っている人?と学生たちに聞くと、100%手があがるのが口裂け女。この話は何度も再生産されて誰もが知っている。都市伝説が神話化していくということもあるのではと思わせます」

元は美しかった女が醜く裂けた口元をマスクで覆い隠し、子どもたちに「私きれい?」と尋ね、返答を誤ると恐ろしい形相で追いかけてくる……この都市伝説はイザナミ神話に通じているという。美しく産み出す女神であったイザナミが黄泉へ下り、その恐ろしく変わり果てた姿を見た夫・イザナキが逃げ出すという件がそれである。

「子どもを追いかける口裂け女はすごく速いんです。神話の逃げるイザナキを追う、イザナミの手下であるヨモツシコメも速い。追いつかれたイザナキは髪飾りを後ろに投げて追っ手を阻止します。口裂け女もべっこう飴で足止めされる。これと同じパターンは昔話の『三枚のお札』にも見られます。お寺の小僧さんが山姥から必死に逃げるけどすぐに追いつかれてしまい、お札を投げて阻むという」

都市伝説(現代)――昔話――古典神話と、恐ろしい女神の系譜を追究しながら膨大な資料にあたるのはさぞや大変だったのでは?

「読むのはたくさん読みました。そこで感じたのは、どの時代、どの地域であっても、人間の心理は似た話を生み出すのだということ。神話にはそんな側面が確かにあると思っています。怖い女の原型というのは古くも新しくも再生産され続けるのではないでしょうか」

その怖さの根源はどこにあるのだろうか、とぶつけてみると、

「現代に生きる我々は、生まれ生きて死んでいくことは別々の事象だと思っている。でも神話では分かちがたいものなんです。産み出すばかりでは地上に生命があふれ、かえって秩序が成り立たない、だから死がなければならない。産み出し、時がきたら回収する、それが表裏一体となっているのが女性、女神の役割なのではないでしょうか」

これが本作の中心となるテーマと語る沖田さん。神話、怪談、小説、漫画、都市伝説と、姿を変えながら生き続ける女神たち。その系譜の辿り方を、本書は丁寧に鮮やかに分析しながら教えてくれる。

原書房 2,300円

『クロワッサン』978号より

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