歌舞伎の家に嫁ぎ、息子と娘を授かり、襲名を迎えて次世代へ繋ぐ。希実子さんがこの本を上梓するにあたり考えたことは、
「やっぱり(成田屋の今の在り方を)残しておいたほうが、後の人のためにもいいかなと思いまして」
「おくりもの」がテーマではあるが、成田屋のしきたりや暮らしぶりを通して伝えられるのは、團十郎さんと希実子さんが物事にあたり、常に真直な思いを込めていたこと。そしてまた、その来し方を振り返る希実子さんの筆致には夫への感謝としみじみとした情愛が感じられて。
「ふふふ、そうでしたか?……でも、先日、結婚して初めて泊まったホテルに偶然行きまして、ああ、ここだったんだなあといろんなことを思い出したばかり。常に思っておりますけどね、主人のことは。暮らしのなかにいつもいてくれる。亡くなって、ちょうど5年。これまで落ちこんだり、心の浮き沈みがありましたが、最近、パーッと明るい気持ちなんですよ。今までそばにずっとついていてくれてたんだと思います。でも最近は息子や孫のところへ行ってるんじゃないかしら。希実子が少し元気になったからって」