くらし

【紫原明子のお悩み相談】シングルマザーです。関係のあった彼のことが忘れられません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>
40歳バツイチ子供2人です。 以前働いていたお店の彼女がいる店長を好きになりました。お店を辞めた後、店長も彼女より私が好きだと言ってくれたので、関係をもちました。

店長と会うようになるまでは、私には付き合っている人がいましたが、関係を持つ前にはきちんと別れていました。店長には彼女と別れてほしかったのですが……別れたことを言う必要はないと思ってしばらくたってから伝えたら、あとで言われたのですが、彼の中では遅かったようでした。

ついに店長から連絡がこなくなり自然消滅を狙っているのがわかりましたが、きちんと振られたいと思い、連絡がなくなってから1ヶ月後にお店へ。 嫌な顔されたらと不安でしたが、普通に会話をしてご飯を食べに行ったので大丈夫なのかと思い、「はっきりして」と聞いたら「終わりにしよう……彼女が大事」と言われました。

わかっていたのですが、わかりたくなくて……自分の気持ちを伝えましたが、どうすることもできませんでした。 彼が本当に好きですが、もう会うことはないと思います。

でも、本当はもう一度私と向き合ってほしい。 私を選んでほしいです。 忘れることが出来ません。時間が忘れさせてくれると思いますが、忘れたくないし私と一緒にいてほしいです。仕事でもミスをしてしまったり、子供たちにも心配かけてしまっています。どうしたら、この状況から抜け出せるのでしょうか…… 彼に会いたいです。 
(相談者:サニー/40代女性)

紫原明子さんの回答

サニーさんこんにちは。熱烈な恋愛をされたんですねえ。

恋愛といえば橋本治さんの名著『恋愛論』、読まれたことありますか? この本の最初の方で、「恋愛は光のようなものである」と説かれています。どういうことかというと、こちらです。

“人が恋愛をする、恋に落ちるということは、そこで初めて、自分を取り囲む“暗黒”というものがある、そういうものがズーッと自分を取り巻いて来ていたんだっていうことを知ることなんですね” (『恋愛論 完全版』橋本治/文庫ぎんが堂)

またその少し後の方にはこんな表現も登場します。

“激しい恋に落ちるっていうのは、それは、恋人同士が二人揃って、現実からスッパリと切り離されるっていうことなんだもの”

自分の周りに暗黒があったのだと気付かせてしまう鮮烈な光、自分たちと現実をスッパリと切り離してしまうもの、それが恋愛。

あとの方には、親しい人間のノロケ話が往々にしてなぜあんなにもつまらないか、というよりむしろ「怒り」が湧いてくるのかについても説明されているんですが、簡単にまとめると、恋愛によって二人だけの光の国に行っちゃった人が、それまであなた達とともに過ごしてきた時間は私にとって暗黒だったのであり、私にはそれを見捨ててこちらに来る理由があったのであり、そしてあなたは未だその暗黒の中にいるんですよと暗に主張していることにほかならないから、ということなんです。

初めて読んだときにはこれ、目からウロコが何枚も落ちました。

あらためて自分のことを振り返ってみますと、のろける側の快感とのろけられる側の怒り、その両方に身に覚えがありました。ついでなので後者の状況をより詳しく説明させていただくと、散々ノロケ話を聞かされた挙げ句、最後の最後に「明子さんにもこういう気持ちを知ってほしいから、素敵な人が現れるといいな」と余計なお祈りまでされました。その頃、折しも私は恋人と別れた直後だったんですが、目の前の彼女を前にふつふつと湧き上がる、この気持ちは一体なんだろう……? と冷静に自分の胸に問いかけたら秒速で“殺意”と返ってきました。

とにかく恋愛ってそんな風に強烈な光を見せてくれるものですから、失恋は自ずと光の喪失で、つまりサニーさんは今、さぞかし真っ暗な世界にいらっしゃるのだろうとお察しします。まったくの偶然だとは思いますが“サニー”というお名前を名乗っていらっしゃることにも、何かしら意味があるのかもと感じてしまうほど……。

恋愛が終わると、一時的に生きる目的を失ったように感じますが、やはりそれも、まばゆい光のもとで遠くまで見渡せていた視界が一気に暗転するため、進むべき道が見えなくなってしまうからでしょう。きっと、少し時間が経てば今の暗闇に目が慣れます。そうするとまた、暗くても暗いなりに見えるようになるでしょうし、彼と出会う前の自分が、決して孤独な暗闇の中にいたわけではなかったということも、思い出せるようになると思います。

お一人で二人のお子さんを育ててこられたとのこと、さぞ大変だったことでしょう。お母さんだって、誰かに優しい言葉をかけてほしいときもありますよね。支えになってくれる人が欲しいと思うこと、ありますよね。優しい男性と出会えて本当によかったですね。ただ今回の彼の場合、どうも長い時間をかけて関係性を育んでいこうという姿勢はあまり望めない方のようですので、ここはなんとか気持ちを強く持って「楽しい時間と良いセックスをありがとう!」と爽やかに次にいきましょうか。

何しろ、もともと彼女がいる人が、それでもなお関係を持ってしまいたくなるほど、サニーさんという方は魅力的な方なのでしょうから、きっとこれからもたくさんの出会いが控えているに違いありません。ですからこの際、サニーさんが恋愛に望むものが何であるかを明確にしておかれると良いかもしれません。

ま‥いきなりこんなことを聞くのもなんですが、生活はいかがですか。苦しいですか? それとも、何とかこのままお一人でやっていけそうでしょうか。サニーさんが経済的にも協力してくれるようなパートナーを必要とされているとか、再婚を希望されているというのであれば、次はその視点から相手を選ぶ必要がありますよね。また、もし逆にその必要がないとすれば、いっそ嗜好品と割り切って、楽しむことファーストの恋愛に振り切っていってはどうでしょう。これ、周りから「産め」だの「結婚しろ」だの余計なプレッシャーをかけられない、シングルマザーの特権だと思うんですよね。

ただこれをやる上では一つ、どうしても必要な心がけがあると思っています。それは何かというと、あくまでも自分が“恋愛で遊ぶ”のであって、決して“恋愛に遊ばれない”と、心に留めておくこと。あくまでも自分主体でやっているのだという意識を欠かさないことです。

というのも、先にご紹介したような恋愛特有の性質から、恋愛は【私とあなた】と【それ以外】の明暗をくっきりと分けてしまうので、どんなに身近な家族だって、大切な子どもたちであったって、恋愛が始まった途端自動的に【それ以外】に追いやられてしまいます。強い光を見ている人の真隣にある、暗黒世界の【それ以外】に、追いやられてしまうんです。

親が恋愛をすることで、子どもたちが暗黒世界に置いてけぼりにされたような気になってしまうというのは、やっぱりどうもあまり望ましいことではないような気がします。というのも、あらゆる子どもは大人の都合で勝手に命を与えられているわけなので、世の中はできることなら、光に満ちた世界だと思ってほしいなと思うんです。

ですから、子どもを持つ人が恋愛をして、素晴らしい光の国に行くのなら、子どもたちもなんとか一緒に光の国に行く、つまり一緒に幸せになる方法を考える。もしくは、子どもたちにはなるべく見えないところで自分だけが光の国に遊びに行って、しかし完全に行ったきりにはならないで、毎回ちゃんと現実に戻ってくる、そういう意識や心がけが大事なのではないかと思います。

完全に行ったきりにならないというのは一見難しいようですが、街で眩しく光る発光系男子(今考えました)に出会ったら、決して直では見ずに、心のサングラス越しに眺めるようにするんです。“よしよし、私の期待する光をもたらしてくれてありがとう。君は、私がこれから死ぬまでにあと100回恋愛するうちの一人だよ”と。そうすると、ちょっと心に余裕ができて、彼のいない家、現実の生活に戻ってきたって、少なからず視界を確保できるんじゃないかと思います。

恋をするたびに毎回これが最後の恋だと思っていると、ついじっくり観察しよう、味わい尽くそうとグイグイ光源に迫ってしまいます。しかしそうすると結局目をやられますから、そこをぐっとこらえて適切に距離を取る。どんなにいい男が目の前にいても、お前を簡単に私の最後の男になんてしてやらないぞと、見下ろすくらいの高みから臨む。自分自身に高値をつけることは、人の誠意を値切ったり、あるいは買い叩いたりする相手との接触を回避する上でも有効だと思うんです。

と、そんな感じで今はとりあえず、完全に溺れきらないような恋をたくさん楽しんでいきませんか、ということなんですが、たしかに小手先の恋愛といえば小手先の恋愛です。でも現時点ではそれもまた一興ではありませんか。 何しろ人生100年時代とも言われております。身を焦がすような恋愛、破滅するほどの恋愛というのはお互い、老後の楽しみにとっておきませんか?

イラスト:クロワッサン編集部・どーなつ

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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