高座にかける演目の決め方をお教えします。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
寄席で落語を楽しんでくださるお客様から「プログラムを見ても出演者の名前ばかりが書いてあって、どんな演目をやるかがわからないんだけど」というお声をいただくことがあります。
実は定席をはじめとしてほとんどの落語会で、演目は「事前には決まっていない」のです。
楽屋には“根多帳(ねたちょう)”と呼ばれる演じられた噺と演者を記入してゆく帳面がありまして、自分の出番が次だとなると、これを見ながら高座にかけるネタを決めるのです。このときに考慮することは
・その日、すでに演じられた噺、そして類似の噺は避ける。
・持ち時間に合わせる。
・その日のお客に喜ばれる。
というのが原則です。
例えば前に誰かが「子ほめ」という噺を演じていたら「子ほめ」をやらないのはもちろん、この噺は職人の八っつあんが物識りのご隠居さんからものを教わり、真似しようとして失敗する「オウム返し」と呼ばれるジャンルなので、同じ構造の「道灌(どうかん)」「十徳(じっとく)」「一目(ひとめ)あがり」といったネタも演じないよう気をつけます。
落語家にも個人差が大いにありますが、たいてい第一候補のネタを中心に二、三の候補を頭に入れて高座へ上がって少しおしゃべり……落語の冒頭(頭にくっつくから“枕”と呼ぶ)でお客様の様子を探り、雰囲気に合ったものを演じてゆきます。ときには候補でも何でもなかったネタに急に入っちゃって当人が驚いたり……。
とにかくお客様に落語日和をお届けしたいのですね。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』977号より
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