【後編】半農半翻訳者の吉田奈緖子さんの「分かち合いで実現した、 仲間との豊かな暮らし」
そのヒントとなった、「贈与経済」とは。
撮影・三東サイ 文・新田草子
分かち合いの連鎖が生む、 都会では真似できない贅沢な食。
例えば、玄米ご飯。吉田さん夫妻が丹精を込めて育て、収穫した籾の籾殻を取り除き、玄米にするには専用の機械を使う。この「籾すり機」が吉田家の納屋にあるのだが、実はこれは坂本さんのものだという。
「米を作っていた頃に思いきって購入。最近は活用できずにいたところ、吉田さんが『使ってみたい!』と」
「厚意に甘えて長期借用中です」
おかげで籾すりの作業がぐっと楽に。坂本さんのもとにはときどき、すりたての玄米が届くようになった。
この吉田さんが育てている米の品種は、いまは種が市販されていないという「初星」。10年ほど前に志村さんから種籾を分けてもらい、それを作り継いでいる。以前、志村家で種籾をとっておくのを忘れて、全部精米してしまった年があった。
「そうしたら吉田さんが『うちにありますよ』と。あのときは助かりました」
おすそわけが、まわりまわって戻ってきた格好だ。
「吉田さんの豆乳ヨーグルトも、どんどんいろんな人におすそわけされてるよね」と、坂本さん。
「うちももらったのだけど、すごく丈夫なタネ。万が一うっかりダメにしても、あちこちに分けてあれば安心」
冷蔵庫で元気に増え続ける豆乳ヨーグルトが、今日のカレーの味の決め手に。以前は缶詰のココナツミルクを買っていたが、値も張る輸入品よりは手近にあるものを生かしたいという。
籾すり機を拝借している友人に、玄米を。
サラダにのっているゆで卵はもちろん、渡邊さんからのおすそわけだ。
「形がいびつだったり、キズがある卵をときどきお分けしているんです」
平飼いで、餌にも自家用の野菜を加えるなど工夫を重ね、渡邊さん夫妻が大切に育てている鶏の卵は、「味わいがさらりとしていて、黄身の色も自然。おいしいんですよ」吉田さんが、そう太鼓判を押す。
稲作農家でもある渡邊さんの家では、米粉への加工を製粉所に委託する試みも始めた。渡邊さんから分けてもらったこの米粉でパンを焼いたのは、坂本さんだ。自家製のレーズン酵母で発酵させた。「小麦粉の割合が少なくて膨らみが足りないかも」と言うが、ぎゅっと目の詰まったパンは香りがよく、食べ応え充分。
新鮮で安全な卵は最高のぜいたく。
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