くらし

高校時代の国語のテスト用紙に気づかされたこと。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

家の掃除をしていたら、高校での最後のものだったのであろう現代国語のテストの答案用紙が出てきた。その用紙の左下に先生へのメッセージが書いてある。どうやら生徒それぞれが先生へのお別れのメッセージを記したようで、その答案用紙には私が綴った、あの当時きっと30代半ばだったであろう女性の先生へ宛てた一言が書かれていた。

「私も頑張るので、先生も頑張ってください」

大人になった私はドン引きした。高校時代、現代国語は得意なほうで、クラスで1番を取った記憶もある。それはまぐれだったのか、記憶違いなのか、この先生へのメッセージは、国語が得意な人間が書く文章ではない。失礼極まりないこの一言メッセージ、先生もトホホ……だったはずだ。もし私が今、この先生の立場だったら、教えてきた立場として、自分に対しても情けなくなっていただろうし、この生徒の将来に何の期待も持たないだろう。

そんな私が、クロワッサンでコーナーをいただいて、文章を書いている。自分の人生を振り返って、どこかで奇跡が起こったんだな、と感じる。

ひとつながりになっている自分の生きて来た道には、こうやって、後で気づかされる埋もれた奇跡も起こっているのだ。保存していても何の役にもたたなそうにみえるテスト用紙の発見で気づかされた奇跡は、どこでどう起こったのか明らかにはならないけれど、とにかく感謝。ここのところ毎日のように先生の顔を思い出しては「あのときは失礼しました」を繰り返している。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は https://www.facebook.com/imostudio.imo/

『クロワッサン』975号より

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