くらし

『大根の底ぢから!』著者、林 望さんインタビュー。四季折々の美味、ときどき珍味な61編。

はやし・のぞむ●1949年、東京生まれ。作家、国文学者。エッセイ、小説のほか、歌曲をはじめとする詩作、能楽、自動車の評論なども手がける。『薩摩スチューデント、西へ』『(改訂新修)謹訳 源氏物語』『謹訳 平家物語』など、著書多数。

撮影・大嶋千尋

思いつくまま、食すままを、軽妙にして洒脱な語り口で綴った、料理雑誌の連載が、一冊の本にまとまった。食にまつわるエピソードを、春から順に追った「おいしい毎日」と、味の記憶を辿る「懐かしい味」の2章からなる。

「こういう本の楽しさは頭から読まなくてもいいところにあるんです。1話完結ものなので、読み手もどこから読んでもかまわない」

その言葉どおり、こちらも自由な気持ちでぱらりぱらりとページをめくっていくと、鮒飯、水飯、イソギンチャクといった、見慣れない単語が次々と飛び込んできて。

「鮒飯というのは、叩いた鮒をさらにすり鉢でごりごりやって飯にかけて食べるもので、見たところは猫飯状態、美しくない。でもまあ、これがまたおいしい。岡山の郷土料理で、珍しいものでした」

ほかにも、講演などで訪れた先で、日頃は食べつけない食材に果敢にチャレンジする姿がユーモラスな筆致で描かれているが……。

「日本は、魚の種類がきわめて多い。その地方に行かないと食べられない魚もある。たとえば、丹後の『ドキ』。見た目はゼリー状で、ぶるぶると透き通って、どう見ても魚に見えない。骨も軟骨状でただただゼリーのようなそれをぶった切って、汁に入れて食べる。そういうのも必ず食べてみるんです」

けれど、もちろん、珍しい食材ばかりに挑戦し続けているわけではない。ときに、大好きな蕎麦を信州や東京近郊で食べ歩きしたり、身近な食材を使って「発明料理」を自ら生み出したり。ともあれ、なによりいけないのは、“食べず嫌い”だという。

「見た目がまずまずしくてもおいしいものっていっぱいあるじゃない。もんじゃ焼きなんて、初めて学生に連れられて月島で口にしたとき、見た目はいかがなものかと思ったけれど、おいしい。食べ物って、グルメ本に載っている料理だけがいいというものではない。やっぱり大事なのは自己開拓」

このもんじゃ焼きのエピソードには「なんぞ焼き」という発明料理がおまけにつく。ほかにも表題の大根にまつわる料理など、数々のレシピが披露されているので、それは読んでのお楽しみ。

最後に、まだ食べていないもので挑戦したいものは?と尋ねると、

「キリンの肉ですかね。アフリカ帰りの知人が、あっさりと美味だったというものですから」

身近なおいしい!から未知の味わいまで、食の冒険は、これからもまだ果てなく続きそうだ。

フィルムアート社 1,800円

『クロワッサン』974号より

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