「いちばん年が若いときに書いたからか、現在の自分との違いを感じる小説ですね。登場する少女たちも小説全体の色も強い。今の私は、いじめ問題など書きたくないし、書かないかなと思います」
全体を貫いているのは、哀しみを帯びたどうしようもない登場人物たちと切ない色合い。
「ちゃんとできない人たちばかりで、どれも同じ空気を纏っていますよね。もともと私が書くのはちゃんとしてない人が圧倒的に多いんですけど、こんなにみんな悲しくはないんです。膨大な量の短編の中からよくぞこんなに悲しい人たちを集めたなと。そこは編集力のすばらしさに感心しました」
誰の周りにもいそうな、ダメなところを持った、あるいは何かの運に見放されたような人たち。懐かしいような、心が震える小さな思い出。どれも読む者の記憶の隅をくすぐられる物語で、著者の多彩な魅力が存分に楽しめる。現在角田さんは、’15年から取り組んでいる現代語訳『源氏物語』に没入する日々のため、無性に短編を書きたくなるときがあるという。
「長編は取材などの準備が1年はかかるのですぐには書きだせないけれど、短編は1000本ノックのおかげですぐに書けるように。書きたいテーマもありますし、短編は新しい書き方を試みたりすることもできるので」