くらし

作家の角田光代さんと歩く大泉学園〜上石神井。ランチやお茶も楽しい、植物の散歩道。

緑豊かな植物園や公園を訪ね、ランチやお茶を楽しむ。のんびり植物を巡る散歩はさながら大人の遠足。
  • 撮影&イラストレーション・黒川ひろみ ヘア&メイク・遠藤芹菜(角田さん) 文・長谷川未緒、松本あかね 取材協力・東京都公園協会 川瀬康子

大泉学園〜上石神井 ルート

自然豊かなエリアで、散策やグルメを楽しんで。

練馬区立牧野記念庭園

植物分類学者・牧野富太郎が生涯を終えるまで過ごした地。

左からダイオウマツ、クロマツ、アカマツの松ぼっくり。植えた当時の細いダイオウマツの姿が写真に残っている。

牧野博士が1926年から1957年まで暮らした住居と庭の跡地。採集したり取り寄せたりした植物を植え「我が植物園」と呼んで愛した庭には、300種類以上の植物が生育中。

線香花火のように可憐な花を咲かせていたサンシュユ。別名、春黄金花(はるこがねばな)とも。秋にはグミの実に似た赤い実をつける。

「牧野先生が植えた木々が残っているんですね」(角田さん)

ありし日の姿を伝える書屋も残っている。

左・博士が実際に使っていた書屋の内部を再現した「繇條書屋(ようじょうしょおく)」。本に囲まれ、深夜まで植物の研究に没頭していたという。右・常設展示室で博士愛用の採集道具などを見学する角田さん。
葉をかきわけて見えたのは、タマノカンアオイの花。多摩丘陵で見つけたことから博士が命名した。

●東京都練馬区東大泉6・34・4 
TEL.03・6904・6403 
営業時間:9時〜17時 休園:火曜、年末年始 入園料無料

石神井公園(しゃくじいこうえん)

武蔵野の自然がよく残された起伏に富んだ公園を散策。

ランニングで訪れることもあるという角田さん。「いつもは早朝に走っているので、昼間の公園は、別の顔がありますね」

「青々とした緑の中を走るのは最高なんですよ」(角田さん)

木々に囲まれた三宝寺池と、ボート遊びもできる石神井池を中心とした公園。石神井城址と関係する遺跡もいくつか残っている。ソメイヨシノ、シダレヤナギ、カキツバタ、スイレン、ミソハギ、ウメなどが見られる。

●東京都練馬区石神井台1・2丁目、石神井5丁目 
常時開園 入園料無料

そば切 なかやしき

石神井公園に面した落ち着いた空間。

国内産の良質な原料を石臼でひいた自家製の粉を使い、丁寧に手打ちした、のどごしのよいそばが人気。とろろやごまだれ、鴨せいろなど定番のほか、ぶっかけや温かいそばも種類豊富。つまみや日本酒も充実しているので、夜もおすすめ。

評判の天せいろは、二八そばに、大海老1尾となすやまいたけなどの野菜3品がついている。1,566円。小海老のみや、野菜のみの天せいろも。

●東京都練馬区石神井町3・3・17 
TEL.03・3904・1028 
営業時間:11時30分〜14時30分(L.O.14時)、17時30分〜21時(L.O.20時) 
休日:火・水曜

インド・アジアン料理 SUSMA(ススマ)石神井公園店

バリエーション豊富なカレーセットでランチを。

チキンやマトン、海老、キーマなどさまざまな北インドカレーのセットや、タイ人直伝のタイ料理も味わえる。カレーは甘口から激辛までの6種類。角田さんは激辛カレーを選び、「もっと辛くてもいい!」と辛いもの好きの本領発揮。

選べるカレー2種とチーズナン、チキンティッカとタンドリーチキンがついた、ススマセット。1,280円。

●東京都練馬区石神井町7・14・3 
TEL.03・3995・5578 
営業時間:11時〜15時、17時〜22時30分 無休

来久三堂(きくみどう)

国際薬膳調理師監修の台湾スイーツとお茶で一服。

中国茶を楽しむ角田さん。

住宅街の一角に位置する一軒家カフェ。テラス席は犬とともにくつろぐこともできる。店主の夫が監修した薬膳スープなど、体に優しいメニューが並ぶ。

仙草ゼリーや白キクラゲ、五色白玉などがトッピングされた豆花。800円。

中国政府が認定する茶藝師と評茶員の資格を持つ店主が淹れる中国茶はマスト。

中国茶は、東方美人、茉莉毛峰(ジャスミンティー)、自然の生薬をブレンドした八宝茶などがある。600円〜。

●東京都練馬区石神井町6・19・2 
TEL.03・6693・2066 
営業時間:11時〜17時 
休日:月曜、第2・4火曜

オザキフラワーパーク

あらゆる植物が揃う、都内最大級のガーデンセンター。

2階はジャングルのような観葉植物コーナー。いろいろ見比べながら、「猫に害がない植物を買いたい」と角田さん。

「見たことのない植物がいっぱい!何時間でもいられそう」(角田さん)

鹿の角にも、羽ばたくコウモリにも似ているビカクシダ(コウモリラン)。インテリアのポイントになると人気。

身近な花や野菜の苗、観葉植物をはじめ、貴重で珍しい植物等、国内屈指の品揃えで、あらゆる植物を販売。

右上・カーテンのように垂れさがるエアープランツのウスネオイデス。右下・角田さんも購入した「生きる宝石」といわれるハオルチアは、南アフリカ産の多肉植物。日にかざすときらきらと透き通って見える。左・店内で何年も育てられている観葉植物の中には大きく成長したものも。観葉植物は乾燥気味に育てることがコツなのだそう。

情報発信やイベント開催を通じ、花や緑とともに暮らす楽しさを提案している。店舗の一角にはカフェも併設。

1階が花苗、花木、果樹コーナー。四季折々の庭を彩る花や、都内では手に入りにくい山野草などが揃う。

角田さんは、庭の花について社長の尾崎明弘さんに相談。「春は花盛り。お目当て以外にも、好みの花が見つかると思います」(尾崎さん)

●東京都練馬区石神井台4・6・32 
TEL.03・3929・0544 
営業時間:9時〜19時 
休日:1月1・2日

緑あふれる東京散歩 文・角田光代

森や山や海など、自然があふれた場所を好むようになったのは、三十代の後半くらいからだ。二十代のときはそうした景色を見ても、「なんにもないな」と思っていた。店や人の多いにぎやかな場所のほうが好きだった。

今でもそういう場所はきらいではないけれど、もっともっと大きなものが見たい、と思うことが増えた。大きなものとは、開けた空とかそびえる山とか、あふれる緑とか、かつては「なんにもない」に分類していた景色だ。東京にも、そういう場所はたくさんある。

練馬にある牧野記念庭園は、牧野富太郎氏が六十四歳から九十四歳の生涯を終えるまで住んでいたところだ。
牧野氏が「我が植物園」と呼んだ庭には、本人の植えた桜や、妻の名をつけたスエコザサなどを見ることができる。春の日射したっぷりのこの日は、近隣の保育園の子どもたちや、老若男女のグループ連れがひっきりなしに訪れていた。実物に忠実に再現された牧野氏の書斎も併設されていて、積まれた書物の数にはただただ驚く。写真と資料の飾られた記念館をゆっくり見ると、牧野富太郎という人を好きにならずにはいられない。

そこからほど近い、広大な石神井公園。
春には池を縁取るように桜が咲き、それが池に映り、幻想的な光景になる。桜が終わると新緑の季節。この日は野鳥の種類と数の多さに驚いた。池で泳ぐオオバン、カイツブリ、子どもたちを連れたキンクロハジロ、木々の合間を飛ぶシジュウカラ、ヒヨドリ、メジロ。公園じゅうに鳥の声が響いていて、聞いているだけで気持ちが浄化される。

やっぱり緑あふれる場所はいいなあと思いながら、オザキフラワーパークに向かう。ずっときてみたかった都内最大級のガーデンセンターだ。
広大な店舗に、観葉植物、花苗、花木、果樹、ハーブ、野菜、切り花、ないものはないというくらいの豊富な植物が並ぶさまは、まるで広大な植物園だ。めずらしい植物も多く、見ているだけでわくわくし、時間が経つのも忘れてしまった。

緑満載の大人の遠足、たのしかったなあ。途中に寄った、「来久三堂」の鹹豆漿(シェントウジャン)と台湾茶とで、旅気分も味わえた。

角田光代

角田光代 さん (かくた・みつよ)

作家

2005年『対岸の彼女』で直木賞、’21年『源氏物語』の現代語訳で読売文学賞など、受賞作や著書多数。近著に『ゆうべの食卓』『明日も一日きみを見てる』がある。

『クロワッサン』1092号より

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