くらし

ラジオが教えてくれる ささやかな喜び。│しまおまほ「マイリトルラジオ」

朝、目が覚めてまずラジオをつける。『次は「現場にアタック」のコーナーです……』よかった、まだ午前8時前。少し時間に余裕があるぞ。

布団からノソノソと起きだし、顔を洗いに洗面所へ。蛇口をひねる前に棚の上に電動歯ブラシと並んで置かれたラジオのスイッチをオン。『今日は新橋のサラリーマンの声を……』寝室から聴こえる音と重なって響く。適当な身支度が済んだら今度はキッチン。ここでもラジオをつけ、朝食の仕度。2LDKの部屋のそこかしこでTBSラジオ「森本毅郎スタンバイ!」が鳴る。

ラジオと共に始まるわたしの一日。

朝起きて、家に帰ってまずTV、という時期もあった。TVの前で着替えて、TVの前で仕事して、TVを観ながら眠りについて。「観たい番組を、観たい時に」ということがいつの間にか出来なくなって、用もないのに「とりあえず」TV。目も耳も吸い寄せられ、身体が置物のようにそこから動かなくなっていることに気づき、自室のTVは処分、居間だけで楽しむことにした。そして、10代の頃夢中になっていたラジオのことを思い出し、冬眠状態だったプレイヤーを引っ張りだしたのだ。

小腹が空いた時つまむオヤツのように、ひと仕事終えた後に開く新聞や雑誌のように、サクッといつでもどこでも。この手軽さがちょうどいい。

あまり興味が湧かない分野のことも、ラジオだと聴けてしまう不思議。番組に送られたメールが思わぬ波紋を広げた時のトキメキ。「ラジオを聴いている」と知っただけでなんだか仲間になったような気持ち。

そんなささやかな喜びを、ラジオはプレゼントしてくれる。

皆さんとも、ぜひ共有できたらと思いこの連載を始めます。

もし、押入れやクローゼットの奥に長い冬眠に入っているプレイヤーがあったら手に取ってみて欲しい。あ、今はスマホでも聴けるんでした。歳がバレますね。

と、いうことでラジオのお話です。次回からよろしくお願いします。

しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『マイ・リトル・世田谷』。

『クロワッサン』973号より

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