『真実』著者、梶 芽衣子さんインタビュー。「 28年“おまさ”を演じ続けられて幸せでした。」
撮影・中島慶子
「女優になって50年が過ぎましたし、今のうちに本を出しておきたいと思ったんです。まだボケていませんので(笑)」
梶芽衣子さんの『真実』は、1965年に18歳で映画『青い果実』で主演デビューして以来、さまざまな作品に出演してきたなかでの思いやエピソードが赤裸々に描かれている。とりわけ出世作となった映画『女囚701号 さそり』では自ら脚本を読んで無言を貫く主人公に設定を変えることや、それにあたり、撮影が手間と時間がかかる順撮り(ストーリーに沿って順に撮影)で進められたことなど興味深い“真実”がわかる。
「黒ずくめの衣装を自分で考えたり、あるシーンでは黒いマントを脱ぎさって下着姿になる提案をしたり。撮影には4カ月もかかりました」
出来上がった映画は空前の大ヒット。すぐにシリーズ化の話が持ち上がるが梶さんの回答はノー。
「一作ですべて完結していたのできっぱりお断りをしたんです。でも意思を超えたところで決まってしまって。ただ4作目で恩人の長谷部(安春)監督に撮っていただき、シリーズでいちばん好きな作品ができたのはうれしかったです」
その後、梶さんはテレビにも出演。名作『寺内貫太郎一家』では長女役でお茶の間に浸透する。
「“さそり”だし、暗い役が多い私にはホームドラマは合わないと言ったんですが(笑)。演出の久世光彦さんに明るい太陽みたいな役だけじゃドラマは成り立たない、と口説かれまして。でも久世さんは本当に素晴らしいディレクターで芝居への指摘も納得のいくものでした。全部で39本、1年近く出演したのは貴重な体験でした」
テレビ作品では『鬼平犯科帳』のおまさ役はいまだに印象深いものがあるという。
「あれは奇跡のようなドラマでしたね。中村吉右衛門さんという偉大な俳優さんを頭に28年間同じスタッフで取り組んだんです。映画と同様にキャメラも1台でじっくり撮影していたので、演じる時の緊張感も人一倍でした。本当に終わりたくなかった作品です」
70歳を越え、今年はロック調の新曲をライブハウスで歌うなど、今も新境地に挑んでいる。
「止まったら終わる気がするんです。全国ツアーもやってみたいと思っています」
帯には「媚びない、めげない、挫けない」の文字が躍る。本書は今も走り続ける梶さんの生き様がわかる、カッコいい快著だ。
文藝春秋 1,350円
『クロワッサン』972号より
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