くらし

『秋田犬』著者、宮沢輝夫さんインタビュー。「同僚にも追究が深すぎて怖いと言われます。」

みやざわ・てるお●1972年、東京都生まれ。読売新聞東京本社生活部記者。秋田支局時代には秋田県政キャップを務めながら秋田犬やハチ公についての連載を担当した。大の昆虫(特に蝶)好き。著書に『大人になった虫とり少年』(朝日出版社)など。

撮影・青木和義

近頃、イタリアやアメリカをはじめとした世界各国で、秋田犬の人気が上昇している。プーチン大統領や横綱・白鵬、アラン・ドロンやスティービー・ワンダー……。彼らも、世界に800あるという犬の品種から秋田犬を相棒に選んだ人々だ。ふわふわの毛並みに優しい顔立ち、悠然とした姿はペットとして充分魅力的だが、実は歴史学、生物学的観点から見ると秋田犬はさらに奥深い。

宮沢輝夫さんの『秋田犬』は、読売新聞秋田支局時代の連載を再構成し出版された。学術的観点から政治的裏話が絡んだ特ダネまで、秋田犬に関する情報が詰まっている。

「犬の祖先はオオカミといわれていますが、ゲノム解析をすると、犬の中でオオカミに最も近い遺伝子を持っているのが秋田犬なんです。トイプードルなど他の品種の犬を飼っている人は、秋田犬を知ることで愛犬を深く知ることにつながるのではないでしょうか」

一方で、秋田犬の歴史は意外と浅い。幕末から明治時代に、東北地方のマタギ犬に超大型の洋犬種の血が取り入れられ、誕生した。定義が定まってきたのも1938年と昭和に入ってからで、それからも少しずつ変化している。

「取材を丸3年する中で、『たかだか明治以降の犬なのに』と、秋田犬の血を守ろうとする動きに疑問を持ったことも少なからずありました。でも、近代国家の日本人の気持ちを投影した『和魂洋才』の品種だとわかり、やや複雑な歴史も含めて、次第に魅力的に感じるようになりました。最近では海外で各国の好みに合わせて繁殖されています」

秋田犬といえばハチ公を連想する人も多いだろう。宮沢さんは忠犬ハチ公物語についても、2つの真実について裏付けをとり言及する。

「まず、ハチ公は飼い主を毎日送り迎えしたという事実はなく、そもそも飼い主は渋谷駅を常用していなかった。次に、ハチ公は渋谷駅を犬として縄張りと見なしていた。忠犬物語を信じること自体悪いことではないし、夢を壊すつもりもありませんが、誰かが真実を知りたいと思ったときに情報を手に入れられる状態にしたいと思ったんです。ハチ公を実際に見た人も、秋田犬を飼っていたヘレン・ケラーに会った人も今や90歳代。彼らに直接話を聞いて、証言を今残せてよかったです」

同僚からも、追究が深すぎて怖いとからかわれるそう。コメントにも本著の膨大な情報量にも、宮沢さんの記者魂がにじみ出ている。

文藝春秋 860円

『クロワッサン』968号より

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