「ドイツで父の敬愛する哲学者のゲーテの家を訪問したのですが、撮影禁止とあるのに『これはお父ちゃん以外の人向けの注意書きだ』と言ってばしゃばしゃ写真を撮る。添乗員にたしなめられると一瞬従うんですが、立ち去ると後ろ姿にアッカンベーをして、また撮り始める(笑)」
そんな自由気ままな水木さんもNHKで『ゲゲゲの女房』が放映された時期は、以前より道で声をかけられることが多くなった。
「父は自宅から会社まで花を眺めたりしながら散歩するのが楽しみだったんですが、サインや握手を求められたり、時には『私の友だちが来るから一緒に食事してくれませんか』と声をかけられたり。母が『お父ちゃん、120歳まで生きようね』と言うと『周りが騒がしくて長生きできない』とこぼしていました」
本書の終章近くで悦子さんは水木さんが亡くなるまでの1年弱の日々を「お疲れさま お父ちゃん」と題して記す。水木さんの93年8カ月の人生への悦子さん流のはなむけの言葉に心打たれる。