アートコレクターの「作品が馴染む家」。
撮影・岩本慶三 文・一澤ひらり
言うなれば「愛でる収納」。気に入った現代アートの大作を飾るため、自宅の部屋をリフォームしてしまったのが、アートコレクターの石鍋博子さんだ。
「桑久保徹さんの〈詩人の庭2〉を飾りたくて、キッチンを潰して展示部屋にしたんです。桑久保さんの最初の個展で購入した絵ですが、いまだに新しい発見があるし、昼間見たり夜中に見たり、対話したりして。それがアートと暮らす楽しみですよね」
石鍋さんが代表を務める「ワンピース倶楽部」は、現代アートのマーケット拡大のため、1年に1作品以上を購入して楽しむ人たちの集まり。設立のきっかけになったのは骨董コレクターだった夫に病気で先立たれたことだった。失意の日々の中で現代アートへの興味が深まり、10年前に立ち上げた。
「私は作家に会わずに作品を買うことがないんです。作家の考え方とか生き方に共感できずに作品を買ったら、単なるインテリア。現代アートとインテリアの大きな違いがあるとしたら、その背後にちゃんと作家が見えるかどうかだと思うんですね。プロダクツだったら平気で片づけられるけれど、アートはそれができません。だから部屋だけでなく、廊下やトイレにもたくさん飾ってますけど、自分の中では一つとして疎かにしているものはないんです。朝起きたら『おはよう』って、家族に気軽に声をかける感じですよね」
収納は苦手なので、全部見えるところに飾る。
結婚して自宅を増築するとき、部屋を広くするか、廊下を広くするかと訊かれて部屋を広くしてほしいと頼んだ。
「まさかアートを飾るようになるとは思ってもいませんでしたから、廊下は狭いんです。でも壁面は何もないから、有効に使えると気づいたんですよね。いまや廊下は立派なギャラリーです」
廊下だけでなく、家じゅうがアートに溢れているのに圧迫感はまるでなく、調和のとれた心地よい空間になっている。
「息苦しくならないように、やはり余計なものは置かないっていうことでしょうね。骨董箪笥がいくつかあるので何でもしまっています。私、収納ダメなんです。しまっていること忘れちゃうから(笑)。だからアートは全部見えるところで愛でていたいんですよね」
『クロワッサン』951号より
●石鍋博子さん ワンピース倶楽部代表/現代アート界活性化のために普及活動に勤しむ。http://www.one-piece-club.jp/
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