散らかった印象にならない、おしゃれな「見せる収納」の秘訣。
収納スペースが少ないからこそ、「見せる収納」に。
庭のグリーンが美しく、窓をあければ心地いい風がふわりと通り抜ける。料理家の中川たまさんが夫と娘の3人で暮らすのは、逗子にある築40年の一軒家だ。玄関から畳のリビングを抜けると、中川さんの持ち物の約8割がここに集まっている、というダイニングキッチンに繋がる。飛び込んでくるのは、センス良く棚に収められた、たくさんの食器や保存瓶、調理道具たち。まるで雑貨店のディスプレイのような趣だ。
「古い家なので収納スペースが少なく、賃貸だから棚を取り付けるわけにもいかなくて。それなら、と自分で収納用の家具をあちこちに置いて、見せる収納にしてしまおうと思いました。暮らしの匂いをしまい込んだ無機質な空間よりも、好きなものに囲まれているほうが落ち着くんです」
食器棚やガラスケースは、ここに来る前から愛用していたものがほとんど。キッチンカウンターの下の格子状の棚(下写真)のみ、サイズを測って夫に作ってもらった。
「使い込んだ家具は古い家によく馴染みます。夫が作った棚は、実は計算を間違えて端っこが少し足りないんですが、それもまたご愛嬌(笑)」
ここには、毎年庭で採れる梅やハーブのシロップ漬け、スパイスの瓶が並び、白やベージュの色合いにアクセントを加えている。
「窓の外に緑があるので、部屋の中には植物をほとんど置きません。その代わり、瓶ものや季節の果物で彩りを加える。趣味の保存食はインテリアにもなるんです」
見せる収納のコツは、「ざっくりとしたエリア分け」。
それにしても、これだけの数の食器の“見せる収納”は、いかにも難易度が高そうだ。一歩間違えば、雑然として散らかった印象になりかねない。うまく収める秘訣は?
「無造作に見えて、ざっくりしたエリア分けをしています。このあたりは和の茶碗、ここは洋の平皿、とか。その上でさらに、色や形が似ているものを近くにまとめます。セットものでなくても、同じ雰囲気のものを集め、重ねたり、かごやプレートに並べたりするとごちゃごちゃしない。以前はいろんなテイストの器を集めていましたが、今は和ならモダンな作家もの、洋なら骨董やアンティークが中心と、趣味が絞られたのもよかったのかもしれません」
確かに、柄ものはほとんどなく、色も白がベース。棚の上やガラスケースの中など特に目立つ場所は、白い陶器や透明のグラスなど、シンプルなワントーンでまとめられている。
「一方で、個性的で見せにくい食器は扉付きの棚の中に。また、常備品の乾物やお菓子の入ったかごにはクロスをかけたりして、すべてを見せるのではなく、統一感を削ぐものはしっかり隠すのもポイントです」
自然体ながらも、見せ方と隠し方に小技がきいた空間づくり。好きなものに囲まれている実感が、暮らしにメリハリを持たせてくれる。
●中川たまさん 料理家/季節の食材を使った常備菜や瓶詰めの保存食が得意。著書に『暦の手仕事』(日本文芸社)など。
『クロワッサン』934号より