「愛パン家」に聞く、買ってきた
パンを美味しく保存する方法。
パン業界の人にはその名を知られた、「愛パン家」の肩書をもつ渡邉政子さん。主食として毎日パンを食べる政子さんに、美味しくパンを保存する方法、パンを切るときのこだわりを聞きました。
「和のおかずを食べ、パンを食べる」。渡邉政子さんは、多くの人が毎日ごはんをたべているように、食事のときは必ずパンを主食として食べるほどのパン好き。
いまではこんなにパン一筋の生活をしているまさこさんが、パンの美味しさに目覚めたのは、高校を卒業してから交換留学で滞在していたオーストラリア・タスマニア島でのこと。
「島にもうひとりしかいなかった留学生の日本人の女の子とふたりで街へ遊びに行ったのですが、その時にパン屋さんで初めて食べた、焼きたてのフレンチスティックが衝撃の美味しさで。それ以来、ずっとパンが好きなんです」
「 私の人生からパンを取ったら、
なにがのこるかなあ(笑)」

「パンの会」の会報。パンに対するまさこさんの情熱が、紙面のどこからも溢れ出てくるよう。
’92年には、美味しいパンをたくさん食べたい、パンのことをもっと知りたいと「パンの会」を立ち上げた。とびこみでパン屋さんにチラシを置いてもらい、会員を募集。年1、000円の会費を募り、区民会館などを会場に集まってみんなでパンを食べ、パンにいて語る集会を開き、年4回「パンの新聞」と題した会報を作って配布。この「パンの会」を13年間続けた。
「パンをテーマにフランス旅行も主宰しました。パン屋めぐりをして、みんなでホテルの部屋で買ってきたパンを食べてました(笑)」
現在は、ライターの池田浩明さんが主宰する「パンラボ」の研究員のひとりとしてブログの執筆をしたり、パンコンテストの審査員をつとめたり。
「以前のように、新しい店を探したり積極的にパンの食べ歩きをすることは少なくなりました。いまは、自分の好きな、ほどよく美味しいパンが毎日食べられればいいと思っています。パンって毎日食べるものだから、遠くまで買いに行くのは違うかな、と思うんです。近所に毎日食べても飽きないシンプルなパンがあれば、満足です」
一年のうち何カ月かを茅野の実家で過ごすまさこさん。茅野にいる時にパンを買うお気に入りの店が何軒かあるが、そのうちのひとつ、『ブーランジェリー けろっく』に連れていってくれた。
「このお店も、シンプルなパンが美味しくて飽きがこない大好きなお店です。別荘族の人たちにもとても人気が高く、午後にはすべてのパンが売り切れてしまうんですよ。オーナーの原さん夫妻もとてもいい人たちで。美味しいパンを焼く人は、不思議とみんな、いい人なんです」
『ブーランジェリー けろっく』でパンを買って出てきたまさこさん、出口のすぐ横にあるベンチに座って、なにやら、ガサゴソ。見ているとやおらバゲットを袋から取り出し、クンクンと鼻を……。
「新しいパンの匂いが大好きなんです。我慢できないんですよ。かがずにはいられません」と、とびきりの笑顔。
パンを買いに行く時のまさこさんの必需品は、いろいろなサイズの紙袋だ。
「ビニールの保存袋に入っていると、パンがしけってしまう気がして、気が気じゃありません。おなじみのお店なら、パンを買う時に持参した紙袋に入れてもらいます。初めてのお店だったらそれはちょっとできないので、店から出たらすぐに、持参した紙袋に自分で入れ替えます。あとは、特に焼きたてのパンは形が崩れやすいので、大切に大切にガードしながら持って帰ります」

電話で予約しておいたパンを受け取りに訪れた『ブーランジェリー けろっく』で。買ったパンを入れるのは持参の紙袋。

バゲットやパン ド ミなどのシンプルな食事パンも、デニッシュも美味しい。

ブーランジェリーけろっく 小さな可愛いパン屋さん。
長野県茅野市湖東6595・
248

オーナーの原奏平さん。茅野が好きで、妻と他県から移住して店を開店。
パンを持って帰宅したら、またそこで重要なひと仕事がある。その日のうちに食べる分以外は、すぐに冷凍してしまうのだ。一回に食べる量に分場合によってはスライスし、ラップに包んでからジッパーつき保存袋に入れる。さらに、ストローを使って完全に保存袋のなかの空気を抜きながら、素早くジッパーを閉める。こうしておかないと、パンから水分が出て霜がついた状態になってしまうそう。
冷凍したパンは自然解凍したら、焼かずに生で食べる。生で美味しくなかったらその時は焼いて食べることも。 ちなみに、パンをスライスする時の「まさこさんルール」は、1センチにスライスすることだと前のページでも紹介したが、スライスする時には、よく研いだ文化包丁を使う。パンによっては歯が波状になったパンナイフを使うこともあるが、基本的には包丁で切るのが好き。なぜなら、「断面がまっすぐになって美しいから。美味しいパンは、美しいパンでもあるんです」。と、美しさにもこだわりが。
パンをいかに最高の状態にして美味しく食べるか、に細心の注意を払うのが「まさこスタイル」とも言える。
「私の頭の中は半分以上、パンのことだから」と言うまさこさんに愚問とは思ったが、さすがにパンに飽きてお休みしたことはないのか聞いた。答えはやはり、笑顔で、「ないない、一回もありません!」
買ってきたパンは美味しく保存、
最後の一切れまで美味しくいただく。

1食分の食パンをラップフィルムで空気がなるべく入らないようにしっかり包む。

ジッパーつき保存袋に入れ、端からストローを差し込み空気を抜いて素早くジッパーを閉める。

上手に空気を抜くことができた状態がこれ。ビニールがパンの表面にぴったり張り付いている。
1センチの厚さにスライスするべし。

「その日のうちに食べきる予定なら、お店ですべて1
センチにスライスしてもらうことも」
包丁で切れるなら包丁がベスト。

「パンの切り方がパンの美味しさを大きく左右するので慎重に。力をいれないで刃の重みでゆっくり切ります」
◎渡邉政子さん 愛パン家/肩書の「愛パン家」は、「パンの会」を立ち上げた’92年から名乗っている。著書に『まさこジャム』(ガイドワークス)。
『クロワッサン』919号2016年2月25日売号より
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