『今度は異性愛』松浦理英子 著──アマチュア作家の日常と創作への試み
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
ネットでBL作品を発表しているアマチュア作家、宮内祐子はコロナ禍で出かけられない日々のさなか、家で筋トレに励むうちに異性愛小説を書こうと思い立つ。その日常が日記形式で綴られていく小説である。
BLと異性愛小説では恋愛の過程において盛り上がる箇所が違うなど、言われてみれば「なるほど」と思うことが多々出てきて、それだけでも面白い。前段階として彼女が自分の過去の恋愛体験を文章に落とし込む部分は、もうこれだけで短篇としての味わいと余韻がある。かと思えばネット上で繋がりのできた自分の読者、めぐみとのやりとりは軽妙で笑える。異性愛者だけれど異性愛小説は気持ち悪くて読めないという同好の士、虹龍さんもインパクトある存在だ。彼女たちの会話が痛快なのは、何が好きで何が苦手なのか、明確だから。自分を客観的によく見てきた大人たち、という印象だ。
後半には宮内が書いた異性愛小説も登場する。思いあぐねていた段階を知っているからこそ、彼女が恋愛のどの過程をクローズアップし、どのような結末にするのか、納得できる内容だ。
一人の書き手の頭の中の、創作をめぐる楽しい冒険譚である。
『クロワッサン』1169号より
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