『ミスター・チームリーダー』著者、石田夏穂さんインタビュー「私はけっこう鬼上司とか好きです」
撮影・幸喜ひかり 文・一寸木芳枝
〈デブが雁首揃えて同じエレベーターを待っている〉
これは、日本橋にある大手リース会社に勤務する主人公、後藤の心の声。係長に昇進した31歳、ボディビルの選手でもある彼は目下、大会に向けて減量中の身。思うように減らない体重を前に焦る今、朝の出社シーンすら毒付く対象だ。
だが、同じフロアで働く課のメンバーたちには、もっと容赦がない。推定腹囲120cmで二重顎の課長、四六時中何かを食べている43歳の部下・野田、取引先からの差し入れ、サーターアンダギーをおかわりする28歳の大島。さらには、ユニクロのカーディガンがパツパツの事務のミエちゃんまで。〈メタボは常人より稼働音が多い。フウとかハアとかヘエとかヒイとか〉〈デブは総じて理解が遅い〉〈太っているのに膝掛けを使っていた〉〈15階の住人は総じて太っている〉とにべもない。
「書いた私自身、よく掲載されたなって思います(笑)。でも書くときに躊躇はなかったです。デブって言っちゃダメとはよく言われますが、私もそうなんですけど、周りが言うほど言われた本人は何も思わないこともあるんじゃないかな。むしろあけっぴろげなほうが救われることもあるんじゃないか。そんなことを考えながら書きました」
芥川賞候補作にもなった『我が友、スミス』をはじめ、“ボディメイキング小説”という新たなジャンルを切り拓いた著者、石田夏穂さん。その最新刊は、デブには耳が痛い表現が次々と出てくるのだが、その言葉どおり、読めば読むほど笑えてきて、不思議と最後にはスカッとする。
チームのスリム化に奔走する リーダーの悲哀を滑稽に描く
後藤がデブを嫌いな理由は、〈自分の身体に対するリスペクトに欠けているから〉。〈体型なんて自分の意思で、どうにもなること〉と考える彼は、やがて標準体型の菊池以外が〈即物的にも、比喩的にも、体脂肪そのもの〉に見え始め、組織にとっていらない部分だと考え始める。そして、実際にチームのスリム化に向け動き始めると、1人いなくなるたびに停滞期だった自身の体重にも変化が表れる。
「徹底的に自己管理ができる人への憧れがあるんです。でも、そういう人がもし中間管理職になったら大変だろうなぁと。自分だけ仕事ができるばかりで、周りは動かない。でも怒鳴ったり、無茶振りもできない中で、人をまとめて結果を出さねばならない。やっぱり割を食うポジションなのかなぁと思いますね。私自身は万年平社員で無責任なもんですが(笑)。でもだったら、そっちの視点で書いてみたいと思いました。モラハラを受ける側の話はあっても、する側の話はあまりないので。その人にはその人なりの正義があるはず、と」
果たして後藤のボディメイクとチーム作りは、彼の意思どおりに成功するのか否か。肉体にも組織にも〝体脂肪〟は本当に害悪か。ストイックもまた良し悪しに違いない。
『クロワッサン』1138号より
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