マンションポエムは「マンションを隠してる」?対談!言語学者・川原繁人さん&写真家 ライター・大山顕さん
撮影・黒川ひろみ 文・嶌 陽子 構成・堀越和幸
新築高級マンションの広告に見られる、詩的なキャッチコピー「マンションポエム」。大げさで情感たっぷりの文言を分析してみると、実はさまざまなことが見えてくる。
長年マンションポエムを研究している写真家、ライターの大山顕さんと、言語学者の川原繁人さんにそれぞれの視点から語ってもらった。
川原繁人さん(以下、川原) 大山さんがマンションポエムを追いかけ始めたのはいつからなんですか?
大山顕さん(以下、大山) 2004年頃からです。当時湾岸にマンションがたくさん建ち始めた頃で、その広告が面白かった。
今も覚えているのが「プラネット台場」というコピー。「惑星のような輝きを放つ」ってあったんですが、惑星は輝かない、それは恒星でしょって。それ以来、そういうコピーを“マンションポエム”と呼んで集め始めました。
川原 ツッコミたくなるもので言えば「そこは、成城でもなく、仙川でもない。そして、成城でもあり、仙川でもある。」(※1)が面白いです。アリストテレスが聞いたら憤慨しますよ。論理的にこれ以上破綻したものはない!って。
そして、成城でもあり、
仙川でもある。
大山 禅問答ですよね。このマンションは、立地がぎりぎり成城の隣の仙川なんですよ。でも世間的には成城のほうが認知度が高い。だから売る側も成城だって言いたいんだけど、そうとは言い切れない。でも言いたい……というせめぎ合いが生んだポエムかと。
川原 大げさではあるけれど、嘘はついていないってことなんですかね。
大山 マンション広告は大げさがスタンダードになってますね。内容を額面どおりに受け取る人ってそんなにいないのかも。たとえば中目黒のマンション広告(※2)を見て、「中目黒に住めば誰にも真似できない俺になれるんだ」と思う人っていない。要は、売る側の気合を伝えるメッセージなんだと思うんです。
この街に「退屈」なんて言葉はない。
それは、誰にも真似できない奔放なスタイル。
誰にも真似できない一日。
俺たちの個性と感性は、今宵も最高潮になる。
川原 挨拶みたいなものなんですね。
大山 それと、言葉がポエムになる時って、人が何かを隠そうとしている時だと思っていて。政治家の答弁が時々ポエムみたいになるのは、言えないことがたくさんあるから。それを隠そうとすればするほどポエムになる。
マンションポエムも何を表そうとしているかを考えるより、何を隠しているかという視点で見てみるのも面白いかもしれません。
川原 価格もそのひとつですかね。同じような条件のマンションが2つあって、どちらかが割高である場合とか?
大山 以前、1600件のマンションポエムを分析して、どんな言葉が頻出するかをまとめたんです。1位は「街」、2位が「都心」。ほかには「暮らし」「緑」など……。
マンションポエムにマンションって全然出てこないんですよね。立地のことしか言ってない。つまり、マンションポエムってマンションそれ自体を隠しているんだなと思ったんです。
川原 なるほど、面白いですね。
大山 新築マンションって高度に工業部材化されているから、部材自体はさほど変わらない場合も。でも川原さんの指摘のように、郊外と都心の同じ広さのマンションでは価格が倍くらい違うこともありますよね。
その価格差が、マンションそれ自体だけでは説明がつかない。その分、立地について言葉を費やしているのかなと思います。
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