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『ふたり 救われた女と救った男』著者・斎藤明美さん「自らたぐりよせる運命もあるのだと思う」

撮影・青木和義 文・越川典子

斎藤明美(さいとう・あけみ)さん 文筆家。著書に『高峰秀子の捨てられない荷物』『高峰秀子の流儀』など多数。3月には、東京・池袋の新文芸坐で「オーラス上映会」を開催予定。詳細は「<a href="https://www.takamine-hideko.jp/">高峰秀子生誕100年プロジェクト</a>」実行委員会まで。
斎藤明美(さいとう・あけみ)さん 文筆家。著書に『高峰秀子の捨てられない荷物』『高峰秀子の流儀』など多数。3月には、東京・池袋の新文芸坐で「オーラス上映会」を開催予定。詳細は「高峰秀子生誕100年プロジェクト」実行委員会まで。

「どうして私がこのふたりの子どもになったのか、今でも考えるの」

ふたりとは、昭和の名優・高峰秀子さんとその夫、映画監督であり脚本家である松山善三さんだ。

斎藤明美さんは、両氏と20年の交流ののち、2009年に養女となった。昨年、高峰さん生誕100年にあたり、大きなプロジェクトを立ち上げた。

「東京タワーで大特別展。着物展。写真展。言葉展。上映会&トーク。写真集や復刻版などの刊行……終盤になってようやくこの『ふたり』を出版できました」

抱いて寝たいくらいかわいい本。ずっと作りたかった本。

「ふたりだけの写真をつめこめるだけつめこみたかった。片や映画1本の出演料が20代で100万円の女優。片や月給1万2500円の助監督、しかもサード。無謀にも交際を申し込んだ男と、その誠実さ、素直さ、人柄を見抜いた女と」

3カ月で別れるといわれた格差婚は、その後、56年続いた。

「高峰は女優である自分を何者とも思っていなかった。生涯で学校に行ったのはたった2カ月だけの自分に、辞書の引き方、掛け算や割り算を教えてくれたのが松山。松山も、骨董や絵画、着物の世界と、全部教えてくれた高峰は自分の先生だったと話していました。ふたりを、私はとうちゃん、かあちゃんと呼んでいたのですが、あるとき、高峰が『神様がかあちゃんをかわいそうだと思って、とうちゃんと会わせてくれたんだね』と言ったときは、はっとしました。高峰は、松山の中に“楽園”を見ていたのだと思います」

こんな人には二度と会えない、互いに思えた稀有なふたり

5歳から映画の世界に入り、ドル箱女優として養母と何十人もの親戚の生活を背負いながら、好きになれない仕事にそれでも誠実に向き合ってきた高峰さん。出演映画300本、著作26冊。国内外、年齢性別を問わず、今もなお高峰さんを敬愛する人は多い。

「高峰が作家の三島由紀夫さんと対談したとき、異性を選ぶ基準がわからなくなったと言われ、こう答えたそうです。『私は、その人の肩書や財産、着ているものも全部はぎとって、それでも好きかどうか考える』と。実際、高峰の人を見る目はすごかった。相手の肩書など、一切気にしなかった。好きな人は好き、嫌いな人は嫌い。一方で、こんなに人間の情を知っていた人はいませんでした」

それがわかるのは、斎藤さんが編んだ『高峰秀子ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)だろう。どの随筆からも、高峰さんが人間の何を見て、何を尊んでいたかが読める。数多ある随筆からこれらを選んだ斎藤さんの視点が、まさに高峰さんと酷似していることに気づく。たしかに、斎藤さんは、この人の娘なのだとわかる。

最後に聞いた。あなたが養女になった理由、わかったでしょうか。

「……そりゃ、やっぱり私が可愛かったからでしょうねえ。あ、ここ、笑うところですからね」

高峰さんの台所、松山さんの書斎も公開。名優や脚本家という肩書を外したふたりを多くの資料で見せてくれる。 扶桑社 2,090円
高峰さんの台所、松山さんの書斎も公開。名優や脚本家という肩書を外したふたりを多くの資料で見せてくれる。 扶桑社 2,090円

『クロワッサン』1135号より

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