やり場のない怒りや自己嫌悪——介護にまつわるつらい気持ちはどうすればいい?
イラストレーション・しりあがり寿 文・長谷川未緒
うまくできない自分に自己嫌悪
面倒ばかり押しつけ何もしてくれない妹たち
私は3姉妹の長女で、実家近くで暮らしていることもあり、両親の面倒は私が見ています。最近、父の衰えぶりがひどく、このあいだは自宅で転んだ拍子に母にもたれかかり、危うくふたりとも骨折入院するところでした。
このままでは母に負担がかかりすぎるため、施設に入れたいと東京で暮らす妹たちに相談したところ、すぐに帰省してきて「お父さんがかわいそう」とか「そんなにボケてない」などと言い出しました。
口先ばかりで何もしてくれない妹たちには「金出せ、口出すな」と言いたいです!(40代)
誰にも愚痴をこぼせず、ひとりで抱え込む日々
結局、たまに友人たちに愚痴をこぼしても、そんなことばかり話していると介護疲れしているかわいそうな人になってしまうので、あまり人には言えず、結局抱え込むことになってしまうかと。
イラッとするたびに、「認知症なんだから」「これが永遠に続くわけではないから」とわかっていても、やはり真に受けてしまい、自己嫌悪に陥ります。同じステージに立ってはいけない、と日々、自分に言い聞かせています。(50代)
母の世話から逃げ出す父、甘えるばかりの弟に辟易
両親と弟が実家で3人暮らし。要介護認定を受けた母の身の回りの手伝いは、基本的に父がしていますが、時々、親戚宅に逃げ出してしまうことがあります。
その気持ちは理解できるものの、私が実家に行かなければならないので、急にいなくなるのではなく事前に知らせてほしい。いっぽう40代の弟は、そんなときも役立たずで、家事もおぼつかない母に「ごはんまだ?」などと言っているのを見ると、腹が立って仕方がありません。(40代)
母の介護のために仕事仲間に迷惑が……
母を在宅で介護しています。私が仕事に行っている間はヘルパーさんに来てもらっているのですが、一日中ではありませんし、たまに急な欠勤や早退が発生してしまいます。チームのメンバーには理解してもらっていると思うのですが、仕事に支障が出るたびに後ろめたい気持ちが……。
子育てがようやく落ち着き仕事に集中できるようになったのに、今度は親の介護でこんなことになるなんて、と悔しさも込み上げます。(50代)
愛猫のおかげで、心を取り戻せた
母の反抗が続き、このままでは暴力を振るってしまうのではないかと不安になるほど怒りが蓄積した時期がありました。
救ってくれたのは猫です。ある夜、言うことを聞かせようと母の肩を押さえつけた時、猫が私をじっと見上げていました。その瞬間、人間の心を取り戻したと思います。すっと怒りの芯が消えていきました。
また、同じように認知症介護をしている友人と思う存分互いの苦境を語り合うことも心の解放になりました。(50代)
この先どうなるのだろうと不安が募る
おいしいものを食べさせたいけれど
母の遠距離介護をしています。母は腰が悪く自分で買い物に行けないため、食事はヘルパーさんに買ってきてもらうお惣菜や、宅配の冷凍のお弁当です。
手作りのごはんをずっと食べられていないと思うと心苦しいのですが、自分が仕事を続けていくには実家に帰るわけにもいかず……。外食でおいしいものを食べたりしている時などは特に、ふと母を思い出して涙が出そうになります。(40代)
親の介護を通じて自分の老後が心配に
私はひとりっ子で、夫も亡くなり、息子たちも遠方で暮らしているため、80代の母親の介護をひとりで続けています。経済的にも精神的にも負担がかかり、息子たちに同じ苦労をかけたくないと思うものの、私には今後、施設に入れるだけの貯蓄もありません。
ふとした時に、息子たちやお嫁さんたちは、私の面倒を見てくれるのだろうかとか、子どもたちに迷惑をかけるくらいなら早く夫の元へ、などと暗い気持ちになってしまいます。(60代)
介護による減収、健康不安で眠れぬ日々
地方にいる母は、90代でどうにかひとり暮らしを続けています。母がひとりで暮らせなくなったとしても引き取ることはできないし、母のために介護施設の検討や転居などを私がひとりでできるのか、今から不安で仕方がありません。
また、母が亡くなった時の諸々の手続きや、実家の片づけも心配です。実家じまいはお金がすごくかかると聞きました。また、自身の介護離職や減収、健康にも不安があり、時々、夜も眠れなくなることがあります。(50代)
心配性の父のために息抜きもできない
ともに暮らす90代の父は、年齢とともに心配性が増しています。私の帰宅時間が少し遅れただけで、事故に遭ったのでは、と警察に通報してしまったこともありました。家にいると父に監視されているように感じて、息が詰まります。
たまに息抜きをしたくても、自分では食事を作れない父のために毎食作ってあげないといけないため、遠出もできません。私自身の体力や気力が衰えていくなかで、この先どうなってしまうのだろうと不安が募ります。(60代)
介護に疲れた時、心が軽くなるヒント
介護者メンタルケア協会代表 橋中今日子さん
私自身の経験や多くのご相談から、介護の悩みには共通項があると感じています。
まずは認知症の方のお金への執着ですが、お金は生きていく上での安心材料なのでお金にこだわるのは「この先が不安だ」と言っているようなもの。盗ったと責められれば嫌になりますが「不安がっているのだ」と別のまなざしを持てると、少しは胸のつかえが取れるのではないでしょうか。
また糞尿の始末は臭いに疲弊しますが、介護に特化した消臭洗剤などがありますので、ぜひ試してみてください。
親に優しくできないというのも介護者が苦しむ問題ですが、薄情なのではなく疲れている証拠。デイサービスの利用など物理的に離れて自分の時間を持ちましょう。場合によっては施設への入居も検討を。
どんな決断をしても、自分を責めないでください。介護を手伝ってくれない親族があれこれ言ってきても、外野の野次ですからスルーしましょう。
介護の困りごとは役所へ相談してほしいのですが、ただ愚痴が言いたい時はChatGPTなどAIの活用がおすすめ。言語化できるとモヤモヤが整理でき、心にスペースが生まれて解決策が浮かぶこともあります。
先の見通しが立たない不安や疲労から、助けを求める心理的余裕を失うことも。公的なサービスを適切に受けつつ、人間関係を豊かにしておくことが未来への安心感につながります。
ひとりで抱え込まず、周りに助けを求める勇気を持ち続けてくださいね。
『クロワッサン』1134号より
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