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『台所で考えた』著者・若竹千佐子さんインタビュー 「ひとりで生きる“老い”こそ自由な挑戦のとき」

若竹千佐子(わかたけ・ちさこ)さん 1954年、岩手県遠野市生まれ。岩手大学教育学部卒業。『おらおらでひとりいぐも』で2017年文藝賞を受賞し、デビュー。翌18年に芥川賞受賞。同作は世界10カ国超で翻訳、刊行決定している。ほか、著書に『かっかどるどるどぅ』。
若竹千佐子(わかたけ・ちさこ)さん 1954年、岩手県遠野市生まれ。岩手大学教育学部卒業。『おらおらでひとりいぐも』で2017年文藝賞を受賞し、デビュー。翌18年に芥川賞受賞。同作は世界10カ国超で翻訳、刊行決定している。ほか、著書に『かっかどるどるどぅ』。

〈小説の神さまは待っていてくれた、辛抱強く私のことを待っていてくれた。〉

長いあいだ専業主婦として家庭を守ってきたが、55歳で夫を亡くし小説講座に通い始めた。8年かけて完成させた作品『おらおらでひとりいぐも』で、史上最年長の63歳で文藝賞受賞。翌年に芥川賞を受賞し話題となる。本作は若竹千佐子さんの初のエッセイ集だ。

小説家になることは子どものころからの夢だったが、家事に子育てに奮闘するうち50を越える。

「いつかは小説家に。ベタッと張り付いた皮膚のようにずっとその思いがありました。何をどう書いたらいいのか、テーマも分からないままに」。諦めることもできず「動けない自分を責める毎日で」。しかし夫が突然世を去ったことで運命が動き出す。

「当時はそれはもう悲しくて悲しくて、大学ノートにその思いを書いていたんです。それが書いているうちにだんだん、私は自由だ!という言葉が出てきて」

〈私は喜んでいる私の心も見つけてしまった。悲しみは悲しみだけじゃない、そこに豊穣がある、と気づいた。このことを書かずに私は死ねないと思った。(略)機は熟したのだ。あとはただ書くだけだった。〉

若竹さんはこうも書く。

〈家族の「副班長」の役目を終えて、誰のためでもない私の人生を生き直すんだと思うことは、けっしてわるいことじゃないはずです〉

「家庭にいる女性は副班長で、班長にはなれない。外からも内側からも自己犠牲を強いられて、仲の良い夫婦でも、心の中に不自由がある。自分を思いっきり試してみたい、何にも試さないで年を取る悔しさ。それを抱えて生きてきた女性は私だけではないと思います。私の場合は薄情だと言われるかもしれませんが、夫が解放してくれたのだと思います」

女性が、さまざまな事情で今はできないけれど、人生で試したいことがあるとしたら、どうしたら若竹さんのように意思を保ち続けていられるでしょう。

「断念してしまう理由は、人の評価を気にして、自分で自分を否定してしまうからではないでしょうか。人を気にしないで自分の思いをまず表現し尽くすことが大切かな。それが小説であれば書き始めたら最後まで書くこと。自分の中に溜まった思いを、終わるまで。自分を腐すのも褒めるのも自分」

死というセーフティネットがあるから何でもできる

自らの作品を、青春小説と対極の“幻冬小説”だと呼ぶ若竹さん。自由に老いを生きることの豊穣に気づけば、死も怖くないと語る。

「セーフティネットだと思う」

〈どんな痛みも苦しみもそこで全部回収される。未来永劫の悲しみなんてない。そうであるなら、安心して冒険していい、積極的に生きていい〉

「やりきって、よくやったじゃんと自分を肯定してあげられたら」

夫に先立たれた喪失感、得られた自由の喜び、老いを生きることへの覚悟。両親につながる故郷のことばへの愛惜もこめて綴られる。 河出書房新社 1,595円
夫に先立たれた喪失感、得られた自由の喜び、老いを生きることへの覚悟。両親につながる故郷のことばへの愛惜もこめて綴られる。 河出書房新社 1,595円

『クロワッサン』1134号より

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