使いやすくて、旨味も引き出す!鍋の最適解を料理家が大検証
撮影・黒川ひろみ 文・一澤ひらり
料理の常識を科学的な視点で見直してきた料理家の樋口直哉さんと、スープ作りでいちばん大切な道具は鍋というスープ作家の有賀薫さん。ふたりでキッチンに並んで手を動かしながら、鍋談議が弾みます。
有賀薫さん(以下、有賀) 鍋のサイズって難しいですね。2人家族でも30代と50代の夫婦では食べる量が違ってくるから、使う鍋の大きさも変わります。
樋口直哉さん(以下、樋口) たしかに。子どもが独立して、家族の人数が減ったら鍋もダウンサイズしていくことが大事ですね。大きい鍋を使い続けない。
有賀 うちは息子が独立したので、夫とふたりきりになって使う鍋も小さくなりました。ひとり減って食べる量がかなり減ったんです。靴は自分の足と0.5cm違うだけでも痛くて歩けなかったりしますよね。鍋も同じなのに「大は小を兼ねる」って大きめの鍋を買う人が多い。でも大は小を兼ねませんってよく言っているんです。
樋口 大きすぎず、小さすぎず。僕がふだん一番使うのは15cmと18cmのアルミの雪平鍋です。軽くて扱いやすいので、茹でこぼす作業の多い和食に最適です。切り干し大根やひじき煮といった和食の煮込みもこれで。でも洋風の煮込みには向いていません。酸とアルカリに弱いから、トマトの煮込みとかダメなんです。
樋口さんの鍋コレクションから
有賀 洋風の煮込みにはどんな鍋を使っていますか?
樋口 人気のあるル・クルーゼやストウブなどの鋳物ほうろう鍋が好きで使っていますが、ちょっと重いのが難点。おすすめはステンレス多層構造鍋です。熱伝導も蓄熱性も高いし、煮込みにはジオ・プロダクトの片手鍋20cm、両手鍋22cmをよく使います。全面7層構造で熱がムラなく伝わりますね。
有賀 ジオ・プロダクト、私も愛用しています。気兼ねなく使えるタフな鍋ですね。毎日料理をしていると扱いやすさってすごく大事だし、海外の高級鍋に比べて格段に安いのも魅力です。
樋口 ヨーロッパのステンレス鍋は側面が単層で鍋底だけ厚くなっている貼り底が多いですが、側面が焦げついたり、アクがつくんですよね。だから貼り底でないものがいいと思います。
有賀 煮込み料理なら、20cmのサイズが2、3人分には最適でしょうね。
樋口 22cmはちょっと大きいのでポトフやカレーをたっぷり作るときにいい。頻繁には使わないけど、1つは持っているといいんじゃないかな。
ふたりが読者に選んだ煮込み鍋
左・樋口さんのイチオシ「ジオ・プロダクト」の片手鍋20cm
「熱伝導性に優れたアルミをステンレスでサンドした全面7層構造で、全体にムラなく火が通り、焦げつくことも少ない。焼いたり炒めてから煮込むのに最適です。保温性も高く、余熱でじっくり味がしみ込みます。洗練されたフォルムで重すぎないし、値段もさほど高くない」。1万1000円(宮﨑製作所 TEL.0256・64・2773)
右・有賀さんのイチオシ「文化軽金属鋳造」の味わい鍋片手20cm
「厚手のアルミ鋳造で、アルミの軽さと鋳物ならではの料理の出来上がりのおいしさの両方を兼ね備えています。炒め物や煮物に使いやすい万能サイズで、フッ素樹脂コーティングのかけ直しや修理をしてくれるサービスもあるので、何十年にもわたって使い続けることができます」。2万6400円(藤栄 TEL.0120・975・236)
機能も大切だけれど、いい鍋や好きな鍋は気分が上がります
有賀 私がいま一番ヘビーユースしているのが味わい鍋の片手20cmですが、アルミ鋳物鍋です。重くないし、熱伝導がよくて、フッ素樹脂加工されているので焦げつきもない。だから洗うのが断トツに楽なんです
樋口 この鍋はアルミが厚い分だけ熱が均一に伝わるし、柔らかく火が入るので、素材の旨味を引き出してくれますね。料理をおいしく作れるのも大事ですが、洗いやすいのも重要ポイント。
有賀 鍋って持ったり、触ったりするから、自分の感覚との相性が大切だと思っていて。私はル・クルーゼが好きなんですよね。雰囲気が柔らかいし、色もカラフルで料理をする楽しさがある。煮込みに適した鍋はほかにもあるけど、「この鍋で作ったからおいしくできた!」っていう気分になれるんです。
有賀さんの鍋コレクションから
樋口 それはよくわかります。好きな鍋やいい鍋を使ったときは気分が上がりますからね。洋風の煮込みにはル・クルーゼのような重い鍋が適していて、ヨーロッパでは年配の方でもかなり重い鍋を使いますが、体の使い方がちゃんとできています。でも、同じ鍋でも手首を固定できないとずっしり重く感じてしまう。鋳物鍋の大きめサイズは無理しないでほしいですね。
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