ペット防災アドバイザーに聞く、愛するペットの安全を守る5つのQ&A。
イラストレーション・スケラッコ 文・兵藤育子
災害を自分事にするのがペット防災の第一歩。
大切なペットの防災について考えるうえで大前提となる心構えは、自分自身の防災意識を高めること。ペット防災アドバイザーの冨士岡剛さんは、その理由を次のように話す。
「地震、台風、豪雨などこれほど災害が頻発する国に暮らしているわけですから、災害のときにどうやってペットを守るのかは、迎える時点で考えなければいけないことといえます。しかし今まで何度も見てきましたが、『大したことはない』『過去の経験からも大丈夫』というふうに正常化バイアスが働いて、災害を自分事として捉えられない方が本当に多いのが現状です」
いざというときに自分ひとりの身を守るのであれば、まだ何とかなるかもしれないが、ペットを守ってあげられるのは飼い主だけなのだ。
「たとえば自宅から避難しなければいけないとき、自分の食料や防災グッズだけでなく、ペットの分も持ち出す必要があります。人間だけの避難より荷物が多くなるうえに、ペット自身のことも安全に移動させなければいけません。それだけ負担が大きくなるので、ひとりで避難するときよりも速やかな行動が求められます」
また災害時に顕在化するペットにまつわる問題は、ペット自身の問題ではなく、むしろ飼い主の問題であるケースが多いと冨士岡さんは指摘する。
「ペットを大事に思う気持ちは、みなさん一緒でしょう。しかし正しいしつけや飼育をして、ペットと良好な関係を築けているかどうかは別。ですから普段からいかにペットのことを思って過ごしているか、飼い主の態度が良くも悪くも表れるのが災害時なのです」
Q.1 もしものとき、ペットと一緒に避難できるの?
A. 同行避難“が原則。受け入れ環境の確認を。
「同行避難とは、災害時にペットを連れて一緒に避難行動を取ること。環境省の『人とペットの災害対策ガイドライン』では、〝ペットが心配だから自宅に残って逃げ遅れる〞等のないよう、被災者の命を守るためにも同行避難を推奨しています。ただし避難所でのペットの受け入れ方はさまざまで運営者の判断に任せられているので、どんな対応を想定しているのか、事前に問い合わせましょう」
〈避難のパターン〉
自宅
自宅に大きな被害がなくそのまま過ごせるようであれば、在宅避難の選択肢も。環境が変わるストレスはないが、ペットと人間それぞれの生活必需品の備蓄が不可欠となる。
避難所の屋外
別室避難の一種で、ペットは渡り廊下や駐輪場など屋根のある半屋外で、ケージに入った状態で管理されることが多い。気候・天候によっては、過酷な環境になることも。
別室避難
同じ避難所内ではあるものの、人と動物が異なる部屋で避難生活を送ること。飼い主は、ケージが置かれたペット専用の部屋にその都度様子を見に行き、世話をする必要がある。
同室避難
飼い主とペットが避難所の同じ室内で過ごすこと。常にそばにいられて安心だが、避難所は集団生活が基本なので、同室避難に対応しているところはかなり少ないのが現状。
Q.2 いざ避難! というときのために、事前にできるのはどんなこと?
A. ペットの防災は、今すぐできることばかり!
人間と同様、ペットも普段の意識付けや習慣がいざというときに役に立つ。
「適正飼育という言葉がありますが、大切なのは飼い主がペットと向き合うことです。それは単にかわいがったり、甘やかしたりすることではなく、ペットの性格や普段の食事の量、好きなことや苦手なこと、健康状態などをきちんと把握することでもあります。そして飼い主自身が地域のコミュニティと良好な関係を築く。適正な飼育をすることは、飼い主自身の意識付けでもあるのです」。
防災の多くは、実は今すぐにできることで、人も動物も日常でできないことは、非常時にもできないもの。
「もしものときに一時的に預かってもらえる場所を作っておくことも大事ですが、お泊まり保育のような感覚で実際にやってみて、その環境に慣れさせておくと、ペットも飼い主も安心できます」
ケージ&キャリーに慣れさせる。
すぐに避難しなければいけないとき、ケージやキャリーに入るのを嫌がるようでは、人もペットも危険に晒されてしまう。また避難所では、長時間ケージで過ごすことになるので、普段から寝床と兼用にするなど、リラックスできる場所という意識付けをしておこう。
トイレ、ごはんの好き嫌いを減らす。
「いつものトイレ」が落ち着くのは当然だが、避難所や預け先でストレスにならないよう、トイレ環境を変えてみるのも立派な避難訓練。食べ物も同様で、偏食が多いようなら、同じメーカー、同じ味ばかりにせず、いつものフードと別のものを混ぜて食べさせてみて。
マイクロチップ&まいご札を付ける。
災害時にはぐれてしまったとき、個体を識別できるマイクロチップは重要な手がかりになる。さらに迷い猫は犬と違って自治体等に収容されにくいので、まいご札を付けておくのがおすすめ。まいご札には、ペットの名前、飼い主の名前、電話番号などを記しておこう。
違う環境、人に慣れさせる。
環境が変わることはペットにとって大きなストレスになるが、犬の場合は普段からドッグランなどに連れて行って、ほかの犬や人と触れ合って社会性を育むことが防災にもつながる。猫はなかなか難しいが、動物病院に連れて行くなど可能な範囲でトライしてみよう。
ご近所にネットワークを作る。
毎日の散歩のときに挨拶や立ち話をするなど、ペットとともに顔なじみになっておくと、いざというときに助け合える関係に。特に避難所は近隣住民が集まるので、こうした普段の印象がとても大事になる。猫の場合も、近所に猫友を作っておくと何かと心強いはず。
離れても大丈夫な距離感の訓練をする。
ペットとの関係で陥りがちなのが、共依存。避難所で飼い主と離れた途端、鳴き続けてしまうペットだと、周りの人にも迷惑がかかって結果的に飼い主も居づらくなってしまう。逆にペットが心配で離れられない飼い主も多い。お互いに適切な距離を保つ努力を!
Q.3 避難のために、用意しておいたほうがいいものは何ですか?
A. 普段から慣れているグッズで、ストレスの緩和を。
ペットの多くは環境が大きく変わることを嫌うので、飼い主とともに在宅避難できるのが一番。とはいえ被害状況によっては、避難所など別の場所へ避難しなければいけない可能性もある。「被災地の交通状況などにもよりますが、ペット用のフードなどは支援物資として概ね1週間以内に届きます。ただしいつも食べている好きなフードというわけではありませんので、食べ慣れているものを用意しておくとよいでしょう」。
食べ物に限らずポイントとなるのは、普段から慣れているもの、安心できるものを用意して、環境を整えておくこと。「ストレスによって大きな声で鳴いたり、問題行動を起こすと、避難所の周りの人にも迷惑がかかります。行った先の環境を整え、なるべく清潔に保ち、ストレスを緩和させることは、集団生活の配慮としても大事なポイントです」
A.うんち袋
犬の散歩や、猫砂の処理をするときのマストアイテム。においが漏れにくいタイプは、人間用の防災グッズとしても何かと重宝する。
B.ペットフード×7日分
いつも食べているフードはペットにとっても安心できるもの。非常用と考えず普段から多めに備蓄しておき、使い回していくのがよい。
C.トイレシート、猫砂×7日分
トイレのお世話も、当然飼い主が行わなければいけない。避難所でもペットの衛生状態を保つために、トイレ周りのグッズは不可欠。
D.ウエットティッシュ、コロコロ
排泄後のペットのおしりをふいたり、抜け毛を掃除したりなど、清潔な環境を保つためのケア用品。毛の長いペットはブラシなども。
E.水×7日分
自分のペットが1日にどのくらい水を飲むのかは、意外とわからないもの。まずは1日の大体の量を把握して、7日分を用意しよう。
F.キャリー
ペットを安全に移動させるために、キャリーやケージは必須。避難時は両手が自由になるリュック型がおすすめ。普段から入る訓練を。
ペットに持病があるなら…薬や療法食
人間同様、普段からかかりつけ医をつくること。持病に対応する薬やフード、サプリなどは配給されないので必ず多めに用意したい。
猫ならさらに…遊び慣れたおもちゃ
普段から遊び慣れているおもちゃや、自分のにおいで安心できるぬいぐるみ、クッション、タオルもストレスを軽減させるために有効。
犬ならさらに…新品の首輪&リード
いつも使っているものがいつ壊れても大丈夫なよう、予備の新品を非常用にストック。ただし避難時は、リードが伸縮しないタイプを。
Q.4出先で地震に遭遇! 家に帰れない! そんなときのために、普段からできることはある?
A.留守中も安全&安心に過ごせる場所を確保。
ペットのみを自宅に残して、外出先で被災してしまう可能性ももちろんある。交通網が遮断されるなどして、しばらく自宅に帰れなくなってしまったときのためにも、普段からできること、外出時の習慣にしておきたいことはいろいろある。
「大切なのは、ペットが自宅に取り残されたシチュエーションを飼い主が想定できているかどうか。もしできているのであれば、留守中もペットが安全にストレスなく暮らせる環境を整えているでしょうし、災害以外でも急に帰れなくなったときに様子を見に行ってもらう段取りを、親類やご近所さんとしているはずです。ひとり暮らしの人などは特に、出張や旅行などのタイミングでそういった知人宅に預ける練習をしておくとよいと思います」。
離れていたら、物理的にできることは限られている。自分事として、ペットの危機管理を!
ケージを固定しておく。
防災の観点で人間のベッドの位置が大事なように、ケージの置き場所はとても大事。倒れないよう固定するのはもちろん、ガラスの飛散や落下物の被害がないような場所に設置すること。
水道水を数カ所用意しておく。
少なくとも飲み水は切らさないよう、ペットのいる部屋に数カ所置いておく。ミネラルウォーターは開封すると劣化が早いので、水道水にすること。猫であればフードを置いておいても。
留守中、 ペットのいる部屋を決めておく。
外出時はペットがいろんな部屋を行き来できるようにはせず、ドアを閉めておくこと。倒れるものなどが少ない、安全な部屋で過ごさせよう。帰宅したとき探すのも簡単なので、一石二鳥。
Q.5 非常時に、どうしてもペットが連れ出せない。やむなくペットだけ自宅に待機させるとき、やるといいことは?
A.長引きそうなときは、一時預かりの検討を。
避難所のペットの受け入れ体制に不安があったり、多頭飼いだったり、あるいは怖がった猫が隠れてしまったり……。非常時の最終手段として、ペットを一旦自宅に残して避難しなければいけないこともあるだろう。
「猫の場合は、できればいつも隠れる場所を普段から把握しておきましょう。そして置いていくことになったとしても、物が落下しないようにするなど周辺の安全を確保しておくことが大切です。犬の場合は、猫のようにごはんを数回分まとめて置いていくことができないので、こまめに様子を見に行く必要があります。リードで繋ぎっぱなしにして、長時間放置するのもNGです。避難生活が長引き、どうしても自宅に残さざるを得ないときは、自治体の動物担当部署に相談してみましょう。愛護センターや獣医師会の一時預かりを紹介してもらえるかもしれません」
家の玄関などに「ペットが います」と張り紙をする。
建物の損傷が激しい場合、捜索や救助を目的に自衛隊などが窓ガラスを割って住居内に入ることも。その際、ペットが脱走しないよう、玄関や部屋のドアに張り紙をしておこう。パウチ加工したものを用意しておくと安心。
一日数回、 様子を見に行く。
犬は特にごはんや散歩のことを考えると、長期間の放置は難しい。どうしてもという場合は、気温や天候の影響を受けない場所で、リードが外れないよう安全性を確認したうえで、可能な限りこまめに様子を見に行こう。
『クロワッサン』1124号より
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