『死んだ山田と教室』著者、金子玲介さんインタビュー。「青春をど真ん中に据えて書きました」
撮影・青木和義 文・堀越和幸
「青春をど真ん中に据えて書きました」
夏休みが終わる直前、クラスの人気者だった山田は交通事故に遭って死んでしまう。
道路に飛び出した猫を助けようとして車にはねられたのだ。二年E組の中心的存在だった人物の突然の死に誰もが悲しみにくれていた……ところが、新学期が始まると、教室のスピーカーから突然山田の声がする。クラスの仲間とまだくだらない会話を続けていたい、そんな思いに導かれ、声だけの存在となってスピーカーに憑依してしまったらしい。
という奇想天外な設定で始まる本作で、金子玲介さんは第65回メフィスト賞を受賞した。
「小説は高校時代から書いていて、純文学の賞の最終選考にも3回残りました。で、そろそろデビューできるかもしれないと期待が高まった頃、代表的な3つの賞に原稿を送ったのですが、どれも最終には届かず、心が折れてしまった」
そんな折、一足早く作家になっていた仲間から、エンタメ小説に転向することを勧められた。
「メフィスト賞はミステリー色が強い賞、でも基本はノンジャンル。敬愛する舞城(まいじょう)王太郎さんや佐藤友哉さんを輩出しています」
そうして同賞への2度目の挑戦で、晴れて受賞とあいなった。
不老不死を手に入れたら人は幸せになれる?
声だけの存在とはいえ死んだ山田の復活で、二年E組はいつもの明るさを取り戻す。山田の発案による最強のクラスを作るための席替え、生徒たちが学園祭で金髪の山田に扮する〈山田カフェ〉、山田の声を囲む誕生日会……、わちゃわちゃとした雰囲気、まるでお笑い芸人の掛け合いのような生徒同士の会話劇で物語は進んでいく。
「その一方で誰もいない夜の教室で山田は孤独です。いつもの二年E組のようでありながら山田の死は厳然としてあるので、その事実からは乖離しないように書き進めていくことに心を砕きました」
そして時は過ぎ、3年次のクラス替え、さらには卒業と、みんなが高校から巣立っていく中、山田だけが二年E組の山田として、スピーカーに取り残される……。
「不老不死は本当に幸せなのか、と考えることがありまして。“不死”になった途端に今へのありがたみがなくなるのではないか。“不老”になれば、自分だけが成長から置き去りにされてつらくはないのか。そんな思いを山田に託しました」
時はさらに進み、かつての仲間が大人の人生を歩み出し、山田の存在もやがて忘れられてーー。
「青春の真っただ中にいる時は熱狂しているから気づかない。外側に出れば、冷めた目で見てしまう。きっとどちらも間違いではない」
死という絶対的な現実と荒唐無稽とも見える青春の輝き、止められない時間、小説は光と陰の強烈なコントラストが胸をえぐる。
「青春というテーマをど真ん中に据えて、それを内側からも外側からも書いてみたかった」
純文学だからエンタメだからではない、私たちがいつも待っているのはこういう一冊の面白い小説だ。
『クロワッサン』1123号より