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席の選び方や用語解説まで、初心者に教えるプロ野球の楽しみ方。

開幕して盛り上がる日本のプロ野球。
初心者でも存分に楽しめるポイントを、観戦歴の長い2人が語り合います。

撮影・高橋マナミ イラストレーション・オギリマサホ 文・黒田 創

家族3代ベイスターズ好き。もはや生活のインフラです。(ライター  西澤千央さん ・左)中学生の頃、カープの雑誌にイラストを投稿してました。(イラストレーター  オギリマサホさん ・右)
家族3代ベイスターズ好き。もはや生活のインフラです。(ライター  西澤千央さん ・左)中学生の頃、カープの雑誌にイラストを投稿してました。(イラストレーター  オギリマサホさん ・右)

WBCをきっかけに見始めたなら、身近な日本のプロ野球(1)にもハマるはず。野球好きで野球関連の執筆活動も行うライターの西澤千央さんとイラストレーターのオギリマサホさんに、球場内外の楽しみ方を教えてもらった。

【1.日本のプロ野球】
通称NPB。12球団がセとパ2リーグに分かれレギュラーシーズン(3月下旬〜10月上旬)143試合を戦う。その後、各リーグ上位3チームによるC・S(クライマックス・シリーズ)、その勝ち上がりチームによる日本シリーズで日本一が決定。

 
 
西澤千央さん(以下、西澤) 私は子どもの頃から横浜DeNA(ディーネヌエー)ベイスターズ(2)ファン…

西澤千央さん(以下、西澤) 私は子どもの頃から横浜DeNA(ディーネヌエー)ベイスターズ(2)ファン。生まれも育ちも神奈川の川崎なのですが、昔は近くの川崎球場(3)を前身の大洋ホエールズが本拠地にしていて、祖父母も親も根っからのファンで私も自然とそうなりました。高校時代は横浜スタジアムで売り子のバイトもしていたし、もはやベイスターズはインフラみたいな感覚です(笑)。

【2.横浜DeNAベイスターズ】
横浜スタジアム(ハマスタ)を本拠地とするセ・リーグの球団。1950年に大洋ホエールズとして発足。2011年12月から現在の名称に。リーグ優勝は2回。全12球団中、最も長く優勝から遠ざかっている。

【3.川崎球場】
神奈川県川崎市にかつてあった、大洋および千葉移転前のロッテが本拠地で使用した球場。昔の雰囲気を色濃く残す球場として知られ、昭和後期はドラマのロケ地としても度々登場。現在はアメフトの競技場。

オギリマサホさん(以下、オギリマ) もともと父が巨人ファンで、私も子どもの頃は巨人ファン。中畑清選手の写真入り缶ペンケースを使っていました。でも中学2年生の反抗期に「親と一緒のチームは応援したくない」と、好きな選手がいた広島カープ(4)を応援するようになったんです。

【4.広島カープ】
広島市に本拠地を置くセ・リーグの球団で、リーグ優勝9回を誇る強豪。広島県民の多くが応援し、チームカラーの赤は広島のアイデンティティのひとつ。現地では鉄道車両にも赤色が採用されているほど。

西澤 でもオギリマさんは東京育ちだから、広島のチームを応援するのって少しハードルが高くなかった?

オギリマ 確かに周りに応援仲間はおらず、球場にもそうそう行けないし平成の初めゆえ情報も少ない。でも自分で気に入って選んだチームなので、静かに熱量を持って応援してました。近所の書店に雑誌『月刊ザ・カープ』を毎号取り寄せてもらい、熟読するのはもちろん、選手のイラストを描いて読者ページに投稿していたんです。

西澤 すごい。のちにイラストレーターになる原点がそこにあるんだ。

オギリマ 巨人ファンの頃から、練習場に見学に行っては選手の絵を描いていたのですが、自分の投稿が雑誌に採用されることで、カープが自己表現の場に変わっていったんです。今はたまに球場に行くし、それも当然楽しいのですが、決して現場至上主義ではなく、それ以外の部分でもカープやプロ野球を楽しみたいというか。

「もっと早くカープ好きを公言すればよかった。」
「もっと早くカープ好きを公言すればよかった。」

西澤 ファンだからってずっと試合を追ってなくてもいいんだよね。私も長男を出産した2004年前後はベイスターズがどん底の時期で、胎教によくないって野球は全然観なかったもん。でも何年か経って筒香嘉智(つつごうよしとも)(5)という未来のスターが入団した時に一気に引き戻され、子どもたちも巻き込んでまた応援するようになりました。

【5.筒香嘉智】
地元横浜高校から2010年ベイスターズ入り。強打でチームを引っ張り’16年には本塁打王。日本で205本塁打を放ち’20年からメジャーリーグに挑戦。現在はアメリカのマイナーリーグや独立リーグで奮闘中。

球場に行かずとも楽しめるコンテンツがいっぱい。

オギリマ 最近はCSやBS、見逃し視聴や繰り返し視聴ができる配信サービスでほぼ全試合観られます。地上波テレビの中継が巨人戦ばかりで、『プロ野球ニュース』や『ズームイン!!朝!』でやっていた「プロ野球いれコミ情報」で流れるわずかなカープ情報を必死に追っていた頃を思うと、いい時代になったなって。

西澤 あとは一つのテーマをマニアックに掘り下げるNHKの『球辞苑』や、『速報ドラフト会議 THE運命の1日』、年末恒例の『プロ野球戦力外通告』(6)とか、少し変わった目線の野球番組も好き。紙媒体だと、シーズン前には12球団の選手名鑑とチームのイヤーマガジンは必ず買うよね。

【6.プロ野球戦力外通告】
毎年年末にTBS系列で放映されるドキュメンタリー番組。その年に在籍していたプロ野球チームから戦力外通告を受けた選手に密着し、苦悩や奮闘する様子、それを支える家族たちの姿が描き出される。
【球団発行のイヤーマガジンは必携!】チームの全選手はもちろん、首脳陣の写真や情報もギュッと詰まった一冊。(写真はベイスターズの2024年度版)
【球団発行のイヤーマガジンは必携!】チームの全選手はもちろん、首脳陣の写真や情報もギュッと詰まった一冊。(写真はベイスターズの2024年度版)

オギリマ 情報収集にはSNSも欠かせません。カープはX(旧Twitter)のアカウントがないのですが、地元広島の新聞や放送局のカープ関連アカウントをフォローすれば大丈夫。

西澤 ベイスターズは親会社がIT企業なのでSNS発信に積極的だし、独自のモバイル有料コンテンツも情報満載なんです。

オギリマ カープも「カーチカチ!」という公式アプリの有料コンテンツの情報量が半端ないです。雑誌やそうしたコンテンツに多少課金すれば、得られる情報が一気に増えますよね。

西澤 あと、グッズ選びも楽しい。

オギリマ カープの場合、ネット通販でもいいのですが、東京だと銀座の広島のアンテナショップ『TAU(たう)』でもカープグッズ(7)が買えるんです。ベイスターズはアパレルがおしゃれですよね。

【7.カープグッズ】
とにかく目立つのが特徴。東京ドームや神宮球場、ハマスタなど関東の球場でもカープ応援席は真っ赤に染まり、圧倒される。ライセンスグッズが幅広く、生活用品すべてをカープグッズで揃えるのも可能との噂。

西澤 応援系グッズとおしゃれ系(8)アパレルがあって、おしゃれ系は何度か〈BEAMS〉とコラボしたりも。初心者はそういう普段使いできるウェアやキャップのほうが入りやすいかも。

【8.おしゃれ系】
セレクトショップとのコラボのほか、ハマスタに近い横浜・日本大通りには、日常生活で使いたくなるような良質な雑貨や洋服、趣味のグッズを揃えた『+B(プラスビー)』というライフスタイルショップまである。
オギリマ でも今はどのチームのファンもレプリカユニフォーム(9)を着こんで球場へ向かう電車に乗ってますよね。お年を召した夫婦同士で着ていたりすると微笑ましいなって。
 
【9.レプリカユニフォーム】
1980~’90年代は不良チックな法被が野球応援ウェアの主流だったが、2000年代前半からこれが主流に。選手と同じユニフォームを着ることでより一体感を感じられ、応援にも熱がこもるかも?
 

西澤 昔は球場に着いてから応援グッズを身に着けていたけど、最近は恥ずかしいみたいな感覚は減りましたね。

席の選び方や用語解説まで、初心者に教えるプロ野球の楽しみ方。

球場に行くならこんな観戦法がオススメ!

西澤 初めて球場で観戦する人は、もし時間があれば練習見学ツアーに参加してほしい。開門前(10)に球場に入って、静かな中で目の当たりにする選手の動きって本当にすごいから。

【10.開門前】
日本のプロ野球は観客を入れる開門前にホームチームが、開門後にビジターチームが練習を行うのが原則。かつてホームチームのファンは推しの練習を観られなかったが、開門前の見学ツアーに参加することで解決。

オギリマ 基本的にどの球場も外野席は応援エリアだけど、攻撃中は立ちっぱなしで応援するから試合終了後はヘトヘトになっちゃう。体力に自信がなければ最初は内野席のほうがいいですね。もちろん、思い切り声を出したいなら外野がおすすめです。

西澤 応援はしたいけどずっと立つのはちょっと……という人は、外野席寄りの内野席がいいかも。ハマスタは内外野席のさらに上段に「ウィング席(11)」という席があって、料金がお得かつ取りやすいです。高所なので球場全体を俯瞰できるのがポイント。

【11.ウィング席】
2017~’20年にかけてハマスタの従来のライト、レフト側スタンドのさらに上段に増設。上段からは横浜港や、晴天なら富士山が見える日も。3万人だった球場の収容人数も現在は約3万4千人に増員した。

オギリマ 野球は試合時間が3時間を超えることがほとんど。疲れたり飽きたりしてきたら途中で球場内をブラブラしてもいいし、無理に最後まで観戦することはないと思います。

西澤 私、子どもの頃なんて6回あたりでよく寝てたもん(笑)。それくらいのスタンスでいいんだよね。

オギリマ カープもベイスターズも本拠地は屋外球場(12)だけど、4月下旬から梅雨入りまでの時期は、外での野球観戦には最適ですよ

【12.屋外球場】
セ・リーグは阪神、広島、横浜DeNA、ヤクルト。パ・リーグは千葉ロッテと楽天が屋外球場を本拠地としている。雨の日でも傘を差しての観戦は後ろの人の邪魔になるので基本NG。雨ガッパを着て応援する。

西澤 大型連休明けには交流戦(13)も始まるしね。お祭り感があって好き。

【13.交流戦】
正式には「セ・パ交流戦」。2005年から実施され、各球団が別リーグの6球団と3試合ずつ、計18試合を行う。勝敗、個人成績は各チームの公式戦成績に反映され、毎年交流戦で調子を崩して順位を落とす球団も。
【席によって楽しみ方が変わる。】
【席によって楽しみ方が変わる。】

ニッチ&マニアック。こんな楽しみ方もあり。

オギリマ 何度か観戦すると、自分なりの楽しみ方が見えてきますよね。

西澤 私、ブルペン(14)を見るのが好きなんだけど、神宮球場やベルーナドームのブルペンはスタンドの目の前にあって、1球ごとに選手の「ウッ!」という息使いや会話が聞こえてきて最高の観戦環境だと思う。

【14.ブルペン】
リリーフする投手用の投球練習場。ベンチの裏や外野席の下にある球場も。ハマスタでべイスターズの山﨑康晃投手がブルペンから出てくる時は、球場全体から「ヤ・ス・ア・キ!」コールが鳴り響く。
席の選び方や用語解説まで、初心者に教えるプロ野球の楽しみ方。

西澤 さすが、目の付け所が違う!

オギリマ あと、昔から選手のユニフォームの着こなしを観察するのが趣味なんです。アンダーシャツの袖の長さや、ソックスを見せるか見せないかなど、同じようでいて一人一人違う。カープだと上本(うえもと)崇司選手。小柄だけど大きめの上着を着て、下はソックスが全部見えるくらい裾上げしているのが可愛いなって。

席の選び方や用語解説まで、初心者に教えるプロ野球の楽しみ方。

野球を好きになるきっかけは 自由。ルックスからでもOK。

「周りの知識マウントは相手にしなくてよし!
「周りの知識マウントは相手にしなくてよし!

西澤 大谷君のカッコよさにやられて野球好きになった女性は多いと思うけど、それでいいんだよね。古い野球ファンは知識マウントをしがちだけど、絶対に負けないでほしい。

オギリマ 私は昔、父に「外では野球好きなことを言わないほうがいい」と命じられた影響でずっとカープファンを公言しなかったのですが、文春野球(16)というサイトでカープのコラムを書くようになりカミングアウト。するとカープファンがみんな優しくしてくれるんです。だったらもっと早くから堂々とすればよかったなって。

【16.文春野球】
「文春オンライン」内にあった野球コラムサイト。12球団のファンの書き手がコラムで対戦し、読者の評価数で勝敗を決定。西澤さんはベイスターズの、オギリマさんはカープの「監督」だった。現在は一旦休止中。

西澤 カープもベイスターズも、ファンも選手も仲良しの印象があるよね。

オギリマ カープはもともと家族的ですが、今は新井監督のキャラでその度合いが一層強まっている。今年の注目はチームに3人いる中村姓。健人(けんと)、貴浩、奨成(しょうせい)の3人は全員外野手で、下手するとスタメンの外野が全員中村になる可能性も。期待したいです(笑)。

席の選び方や用語解説まで、初心者に教えるプロ野球の楽しみ方。

西澤 ベイスターズは港町横浜の気質もあって、新しいファンでもすんなり受け入れられるはず。今年は度会隆輝という大物新人が入団したし、今ファンになれば彼と同期の気分で見守れますよ。あとはイベントがすごく多い。毎年恒例のガールズフェスティバルでは、限定ユニフォームが女性客全員にプレゼントされるんです。ユニフォームがどんどんたまって整理が大変!

【ベイスターズはイベントめじろ押し!】ガールズフェスティバルに加え、昨年はポケモンとのスペシャルイベントで選手がピカチュウヘルメットを着用したことも。 (C)YDB
【ベイスターズはイベントめじろ押し!】ガールズフェスティバルに加え、昨年はポケモンとのスペシャルイベントで選手がピカチュウヘルメットを着用したことも。 (C)YDB
  • 西澤千央

    西澤千央 さん (にしざわ・ちひろ)

    ライター

    「文春オンライン」や『GINZA』(マガジンハウス)などでコラムを執筆。『女芸人の壁』(文藝春秋)の著書を持つ。

  • オギリマサホ

    オギリマサホ さん

    イラストレーター

    社会科(倫理)講師の顔も持つイラストレーター。『斜め下からカープ論』(文春文庫)、『半径3メートルの倫理』(産業編集センター)の著書がある。

『クロワッサン』1116号より

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