青森・津軽、伝統料理を味わう旅。
撮影・徳永 彩(KiKi inc.) 文・黒澤 彩
津軽の郷土の味、保存食、発酵食は母の真心の結晶。
“津軽富士”と称されるだけあって、白い雪を頂いた姿が気高く美しい岩木山。津軽の人は皆この山を見ると、あぁ故郷に帰ってきた、と安堵するという。
そんな岩木山の裾野に広がる津軽地方の中心地・弘前市が今回の旅の目的地。この地域で古くから大切にされている文化や伝承、暮らしの営みを訪ねた。
「こっち手伝ってー」「あれどこいった?」「知らないよぉ」「ワハハハー」。活気ある声の掛け合いとともにものすごいスピードでおかずがどんどんできあがっていく。なんと鮮やかな連携プレー! やってきたのは「津軽あかつきの会」。会長の工藤良子さんと会員の女性たちが、伝承料理を次世代に繋ぐ活動の一つとして、この場所で昼ごはんを提供している。
「昔の人は、山菜が採れる頃になると次の冬に向けて保存食作りを始めました。野菜も魚も干して、塩漬けしたり、根菜は雪に埋めたりもします。漬物や味噌は自家製が当たり前でしたが、今は何でも買えますから、作る人が少なくなりましたね。ここでお食事をすると、若い人も昔ながらの食文化に興味を持ってくれるんじゃないかと思います」(工藤さん)
料理の一品一品には、生活文化や風土に根ざした由来がある。たとえば、「けの汁」という具だくさんの味噌汁は、女性が実家に里帰りするため家を留守にする時に、家族のためにたっぷり作り置きしておいたもの。豆、山菜、根菜、昆布が入ってこれだけで栄養充分。米が少なかった時代に、米の代用として具を細かく刻んで作ったのが始まりという。その工夫と知恵に、頭が下がる思いだ。
りんごの漬物というのも初めて食べた。こちらでは一般的なのだろうか?
「これはね、実にかけた袋を外す時にツルが取れたり落下したりんごを漬けるんです。でも、最近は漬物用のりんごが手に入らないの。熟した甘いりんごだと、漬物にならないんですよ」。
りんごはとても偉大で、津軽では酢の物や蕗味噌を作るのにも、りんごの甘みを砂糖の代わりにしてきた。砂糖は貴重だったため、人寄せの日(冠婚葬祭や田植えの時)にだけ惜しみなく使ったのだそう。津軽の女性たちが繋いできた食の知恵。元気をもらいに、季節を変えてまた訪れたい。
津軽あかつきの会
伝承料理のご馳走づくしを味わえる。
季節ごとに、お正月料理、山菜料理、田植え料理といったお膳料理でもてなしてくれる。農家ならではの保存食や旬の食材を使い、手間ひまをかけて作られた伝承料理には珍しいものも多く、ひと皿ずつ説明を聞くのも楽しみ。
●青森県弘前市石川家岸44・13
TEL.090・7665・8468
営業時間:11時30分~14時 月・火・水曜休
※利用は4名以上、4日前までに要予約。
『クロワッサン』1116号より