くらし

考察『光る君へ』5話 六条の荒れ果てた屋敷での辛い告白…道長「俺は、まひろを信じる」吉高、柄本の繊細な芝居に泣く

大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00〜)5話は「 告白」。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか、その過程はどう描かれるのか。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載第5回です。
  • 文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ

倫子さまについていきたい

『光る君へ』5話イメージイラスト「まひろから道長への辛い告白」/南天

冒頭の土御門殿姫君サロン。姫君たちが「お通い」相手に重視するのは、家柄はもちろんだろうが、富、あるいは見目麗しさ。つまり金か顔。雅な口調で交わされる内容が、意外に現実的……。

五節の舞姫を務めた後倒れたまひろ(吉高由里子)に対して身分が低いからと悪口が出かかったところ、ぴしりと止めて「優しく接してあげてくださいね」と微笑む倫子(黒木華)。このサロンを下品ないびり、いじめの温床にする気はないのだ。優しさというよりも、貴族としての矜持を感じる。そして、前回まひろに釘を刺したときと同じように上級貴族の姫相手に振る舞ったことに感心した。彼女がやがて妻になり、一族の女主人として取り仕切る屋敷はさぞ安定した空気が保たれることだろう。倫子さま、貴女についていかせてくれと惚れ惚れする。

平安時代の寄坐と霊

三郎は母の仇である道兼(玉置玲央)の弟、右大臣家の道長(柄本佑)だった。ショックで枕も上がらぬ状態になってしまった、まひろ。彼女が快復するように、乳母・いと(信川清順)が祈祷の僧侶(植本純米)と寄坐(よりまし/傅田うに)を呼ぶ。植本純米、大河ドラマは『平清盛』『真田丸』に続き3回目の出演である。毎度なんとなく怪しげな僧侶の役なのだ。今回も怪しい。

寄坐とは、祈祷を行う際に霊をその身に乗り移らせ、語らせる者のことだ。僧が言うには、亡き母の霊が成仏できず、まひろの体調に悪影響を与えているのだと。現代人としては、先に乳母との会話で母を亡くしているという情報を得ているのでそういう流れになるのだろうな……と思ってしまう。なにせ、寄坐は「娘よ」と呼びかけるものの、まひろの名を言わないのだ。だって知らないから。

平安時代当時の人々は病気は物の怪が憑りついて引き起こすものと考えていたので、僧侶と寄坐の言うことを、いとが本気にするのを愚かとは言い難い。ただ、まひろと惟規(高杉真宙)が怪しむのももっともな祈祷だった。惟規ってお勉強はできないけど、お馬鹿さんではないんですよね。母・ちやは(国仲涼子)がまひろを祟るわけがないと、ふたりとも信じているのも大きいのだろう。

『源氏物語』でも光源氏の恋人・六条御息所の生霊が嫡妻(本妻)である葵上に憑りついて殺し、更に死後も妻の紫の上、女三宮らに憑りついて祈祷によって寄坐に降ろされるという展開がある。そしてこちらではドラマと違い、寄坐は光源氏が「御息所では」と思い当たる言葉を述べるのだ。紫式部も病気になったときは幾度も祈祷を受けただろうから、こういった経験があって説得力ある寄坐場面を書いたのかもしれない。

いよっ!実資!

花山天皇(本郷奏多)のやる気は認めつつも、関白とは違い、そのまま放置する気は全くない実資(秋山竜次)。

「夢を掲げるだけであれば誰にでもできる。実が伴わねば世は乱れる」
「政は子どもの玩具ではない」

いよっ!実資!さすが賢人、頼りになるぅ!と拍手喝采だ。配役・衣装を着けたビジュアル発表時に、秋山竜次のハマりぶりに驚き、キャストの中でも平安時代の装束の似合いぶり一位ではなかろうかと思ったが。こうして演じ、動き出してもまさに藤原実資。しかし、相手が帝であろうとも、このままでは駄目だと筋を通そうとする男、帝の寵臣相手でも一歩も退かぬ男が、第3話(記事はこちら)では内侍所の女房たちには一方的にやられて凹まされてしまったことを思うと、ちょっと笑える……というか、内裏の女房ってどれだけ恐ろしいのだ。

衛生環境を考慮したい

弘徽殿の女御・忯子(井上咲楽)が花山帝に「愛でられすぎて倒れる」。お気の毒~お幸せ~と冷やかす女房たちのひそひそ話だが、ふと思うのは当時の衛生環境である。
平安時代の貴族の入浴は、蒸し風呂と足湯くらいのサイズの小さな湯殿を使った行水で、頻度はこれらを併せて月に五、六回ほど。それも占いで決められた日のみだった。入浴は清潔を保つためというより穢れを払う「禊」の意味合いが強かったという。

第2話で円融帝(坂東巳之助)を久しぶりにお迎えする前の詮子(吉田羊)が湯あみしたことについてこれまた女房たちが「やる気満々!」と、はしたない悪口を言っているが、現代のように房事の前後にたっぷりの湯でシャワーを浴び、石鹸で体を洗うなどできなかった時代。のべつまくなしのお渡りでは、性病まではいかずとも細菌感染、それによる発熱などの不調は避けられなかったのではないか。抗生物質はもちろんない。女房たちは嗤うけれど、ただただ、忯子が気の毒である。

その後、忯子懐妊の噂が兼家の耳に入っており、伏せっていたのは妊娠初期特有の不調かもと思わせる描写となっているが、いずれにせよ生殖……妊娠出産に関わることが女性の体に負担なのは今も昔も変わりない。衛生環境も医療も整っていなかった時代は、より深刻だったろう。

藤原公任の「いらん言葉」

若き貴公子たちの学問しつつのバチバチ。

ここで集った若者たちの現状を見てみよう。公任(町田啓太)の父は関白・頼忠(橋爪淳)だ。姉・遵子(中村静香)は譲位した円融院の中宮だが皇子はいない。斉信(金田哲)の父は大納言・為光(阪田マサノブ)。妹が花山天皇(本郷奏多)の寵姫、いつ子を成してもおかしくない。道長の父は右大臣・兼家(段田安則)。姉は東宮懐仁親王の母・詮子、将来の国母。この中で腰が低く、皆に気を遣っている行成(渡辺大知)は右少将であった父を早くに亡くしたが、花山天皇の従兄弟であり官位を得ている。

そう。この作品では、公任だけが花山帝とも次の帝である東宮懐仁親王とも繋がりがないのだ。それを意識して敢えて強気に出ているのか、斉信相手に挑発的な発言が相次いだ。

このドラマレビューの第2回目(記事はこちら)で、史料に残る公任について「自信満々のためか、いらん言葉が軽やかに出てしまうたちであったらしい」と述べた。藤原公任は自分の姉が円融帝の中宮として立后した際、兼家の東三条殿の前を通りかかり屋敷を覗きこんで、

「このお屋敷の女御(詮子)は、いつお后に立たれるんだい?」

こんな言葉でからかい、東三条殿の人々を怒らせたというエピソードが『大鏡』にある(後年、詮子の女房から痛烈なカウンターパンチをくらい「自分もあの時は言い過ぎたから……」と公任が恥じ入ったという記述もある)。このドラマの彼は、そうした軽口で他人の怒りを買ってしまうタイプだろうかと思いながら観ていたが、

「俺たちが競い合うより、先に手を組んだほうがよいと申しているのだ」という斉信相手に
「俺より官位が上になったら言ってくれ」。

これは……言ってるな。この公任なら、東三条殿の門前でいらんことを言ってるわ。ただ彼の軽口については、史実の紫式部を我々に伝える重要なエピソードがある。ドラマ内でもきっと登場する。その瞬間を楽しみに待とう。

三人の重臣の酒宴

土御門殿において、関白・頼忠(橋爪淳)、左大臣・源雅信(益岡徹)、右大臣・兼家、珍しい取り合わせの酒宴。花山帝が出す荘園整理令を前に、呉越同舟の結束というところか。荘園は、貴族や寺院が持つ私有地、私的財産である。それを整理し、国庫に入ってくる税を増やすこの政策は花山天皇から80年ほど昔に醍醐天皇が行っており、醍醐天皇はご自身がリーダーシップを発揮して政を行った賢帝と讃えられている。花山天皇がなさろうとしていることはかつての聖代に倣いつつ、三人の重臣が口を揃えて言うとおり「我らの力を削ぐ」ものだった。
やけっぱちで煽る酒に、関白の声のボリュームも上がる。そのボリュームに、いちいち左右大臣が反応するのやめてほしい、笑いが止まらなくなるから。

駆け抜ける倫子!

そして、この場面で駆け抜ける倫子! 第3話の「すごーい!」と同じく「これは…ど、どっち!?」となった。本当に猫の小麻呂ちゃんを追いかけて、うっかりお客様の前に姿を現してしまっただけなのか。それとも、ある意図をもった行動か。

父・雅信が言う「あのような礼儀知らずの娘。入内など、とてもとても…」。倫子が入内するか否か、ずっと注視していた右大臣・兼家を安心させつつ、入内させる気はない未婚の姫、しかも抜群に「麗しい姫」が我が家にいるのですと強調しているかのような。

冒頭の姫君サロンでの「右大臣家の三人のご兄弟はそんなに見目麗しいの?」が思い出される。倫子自身の興味、母・穆子(石野真子)の「もう22歳ですよ」、花山帝に立ち向かうため右大臣家と手を結ぶ必要性が出てきた父・雅信……土御門殿家族の考えが一致し、導き出した答えがあっての、あの駆け抜け場面ではなかったか。
第一、あの倫子があんなはしたない真似をうっかりやらかすかなぁ?と。

源氏物語ファンにとっては「姫君が姿を見られるきっかけは、やっぱり猫ですよね!」と頷く場面でもあった(ドラマレビュー4話(記事はこちら)を参照)。

朗らかな男、藤原道綱

『蜻蛉日記』の作者、藤原道綱母(寧子/財前直見)登場! 平安女流日記文学のパイオニアだ。
『蜻蛉日記』は彼女が兼家と結ばれた20歳から40歳までの21年間、夫婦の生活を綴っている。お互いに若き日、兼家から熱心に求婚されたこと。道綱を産んだこと。彼に別の女ができて喧嘩が絶えなくなったこと……当時の女性の苦しみ悲しみが伝わるが、このドラマの視聴者として読むと、愛を語る兼家、妻の激怒に困らされる兼家、寺に籠った妻を説得して連れ戻す兼家、母を亡くして悲しみに沈む妻を慰める兼家……様々な彼の顔も浮き彫りになる。
藤原道綱母は、

小倉百人一首
なげきつつひとりぬる夜の明くるまはいかに久しきものかとは知る
(嘆き悲しみながら寝る、孤独な夜が明けるまでの時間。それがどれだけ長いか、あなたはご存知ないでしょうね)

この歌の作者でもある。これを贈られた男が兼家だ。

兼家と寧子を前に舞う朗らかな男。この夫婦の息子、道綱(上地雄輔)。道綱は弓と舞の名手との呼び声高い人物だ。反面『小右記』では実資に「一文不通(何も知らない)」「自分の名前くらいしか漢字を読めない」とクソミソにけなされている。
それを、ドラマでは父・兼家に、嫡妻・時姫(三石琴乃)の産んだ道隆・道兼・道長三兄弟の競争相手にならぬよう「控えめにしておれ」るよう、政治の場で活躍する公達としての教育を受けさせてもらえなかったから、という描写。
なんと残酷な……と思うと同時に、一族を率いて朝廷の頂に立つべく、父から直に手ほどきを受けている三兄弟がちっとも幸せそうに見えないので、人間としてはどちらが恵まれているのかと考え込んでしまう。

ちなみに、道綱は同時代を生きた女流歌人・和泉式部には「あはれを知る人」と評されている。政治家としてはともかく、情緒豊かな男だったのではないか。

帝の御子を呪詛

忯子が懐妊したらしいという噂を聞き、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)に呪詛を申しつける兼家、拒否する晴明。
第1話(記事はこちら)で円融帝の女御・遵子に子ができぬようにという呪詛は引き受けたが、女御の腹に宿った御子を呪うことはできぬという。これまで都、内裏の暗部を一手に引き受けてきたような彼であるが、明確な線引きはあるらしい。

そして月明りのなか、御簾の向こうに現れる関白、左大臣、参議の面々。
兼家の長男・道隆もいる。帝の御子を呪詛するという陰謀に加わっている。もう穢れなき存在には戻れない。

恐ろしい脅しを前に引き受けたのだろうが「帝の御子を呪詛し奉るには我が命を削らねばなりませぬ」という台詞。安倍晴明は85歳まで生きている。今回の呪詛がなければ120歳くらいの寿命だったのだろうかと、怖いシーンなのに振り返るとじわじわ可笑しくなった。

六条の荒れ果てた屋敷で

道長がまひろに宛てた文で、為時の家に行く、と書いていたので観てる私が焦ってしまった。
冒頭の姫君サロンで五節の舞姫で見染められた姫に「お渡りがあった」と赤染衛門が言ったが、まひろにそのつもりがなくとも、娘がいる為時の家に公達が訪ねて行くというのは世間的に見れば「お渡り」とみなされるだろう。そして、まひろと道長の家の格差であれば間違いなく愛人……。

為時の家でなく他の場所で待ち合わせ。愛人ルートが回避されてホッとしたのち、その待ち合わせ場所が六条の荒れ果てた屋敷。全国の源氏物語ファンは「六条!!」ガタッと立ち上がりかけたのではないだろうか。
物語の中で数々の女性と浮き名を流した光源氏だったが、彼が深く愛し一生忘れられない女性、夕顔。その夕顔を連れて秘密の一夜を過ごしたのが、六条の「なにがしの院」、荒れ果て寂れた屋敷だったのだ。六条に、まひろと道長が!

この作品のまひろ……紫式部は、かつての自分の経験、思い出を籠めて『源氏物語』を書くことになるのか。そしてその物語は、当然のことながら道長も読むのだ。どうしよう、今から心が掻き乱される。

まひろから道長への告白。
かつて道兼に母が惨殺されたこと。父が母の死因を偽らねばならなかったこと。

「兄はそのようなことをする人ではないとは言わないの」
まひろの問いに、兄は暴力的な人間であるからとか、何よりもあの日、返り血を浴びた姿を見たからというのではなく

「俺は、まひろを信じる」。

まひろが言うのだから信じるのだと。その心のこもった率直な言葉によって、まひろは6年間胸に秘めていた苦しみを吐き出すことができた。父を責めていたのではない、本当に責めていたのは自分。母の死は私のせいなのだと、ずっと苦しんでいた。

子どものように咽び泣くまひろ……吉高由里子と、彼女を抱きしめるでも肩を抱くでもなく、おずおずと手を背に添える道長……柄本佑と。ふたりの繊細な芝居に泣かされた。

貴族ではない直秀に「直秀殿」と呼びかけるような男だからこそ、彼女に近づくなと言っていた直秀も、まひろを任せる気になったのだろう。そりゃこれまでのふたりのやり取りを聞いていたら、立ち去るしかない。しかし、おそらく観ている全員が直秀と共に呟いた「帰るのかよ」。

殴りに帰るんだね道長。まひろの代わりに、兄を殴りに走るんだね。第1話からずっと「俺は怒るのは嫌い」と言っていたのに、まひろのために。

初めて怒りを爆発させる道長、俺は父上に庇護されてるんだぜと勝ち誇る道兼、それらを上回る迫力で観ている者の心胆寒からしめる、兼家の哄笑。この怪物を頂く藤原北家、これからどうなってゆくのか。

いよいよ清少納言登場

激しく恐ろしい場面のあとに、帰宅してから泣くまひろを見てホッとした。長年の重荷を言葉として吐き出し、ようやく父の胸で泣くことができた。あの日の悲しみも抱えた苦しみも、消えたわけではない。が、この夜はまひろが、ひとつの区切りを迎えた夜となった。彼女と一緒に泣いたラストシーンだ。

家族を照らす月の光が、とても優しい。

次週予告。清少納言がいよいよ出てきますよ!! 兄・道兼の汚れ役ルートを確認する道長。今週に引き続き、何かの準備を着々と進めているらしき詮子。花山帝の閨で何かあったらしい。笑いに満ちる姫君サロン、まひろの座る位置が今までと違うね? 肇子さま、ご結婚なさったらやっぱり来られなくなっちゃうのね?「笑える話」ってなに。
第6話が楽しみ、待ちきれないですね。

*このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。

 『光る君へ』1話イメージイラスト「まひろと三郎の幼い出会い」/南天
 『光る君へ』2話イメージイラスト「まひろの仕事は代筆屋」/南天
 『光る君へ』3話イメージイラスト「見事な貴婦人、倫子はよく笑う」/南天
 『光る君へ』4話イメージイラスト「五節の舞姫を務めるまひろが見たその顔は!」/南天
『光る君へ』5話イメージイラスト「まひろから道長への辛い告白」/南天
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