くらし

吉田愛さん×今井亮さん、料理家同士の台所ツアーから学ぶ、手際よく作業できる道具の配置。

実は10年来の友人という二人。
互いのキッチンもこれまで行き来があったというが、仕事の目で改めて観察するのは初めて。
ご意見やいかに!?
  • 撮影・青木和義 構成&文・中條裕子
左・今井亮さん「基本は作業台に立って自分がどう動くか、かな。」 右・吉田愛さん「なるべく動かなくてもいいよう配置してます。」

限られた空間で、いかに効率よくストレスなく料理するか? その環境を整えるのも、仕事の一部である料理家の二人が互いのキッチンを訪問。今井亮さんは引っ越して3年近く、吉田愛さんは5年ほど、現在のキッチンを使ってきた。その間、何度か行き来してきたが、今回は収納までじっくりと見て、改めて感じたことを語ってもらった。

吉田愛さん(以下、吉田) 今井さんのキッチンは、オープンタイプですごくスッキリしていて。いかにも使いやすそうなのが、見てわかります。

今井亮さん(以下、今井) いろいろな段階を経てきていますからね。実は以前のキッチンのほうが、奥行きも幅も広かったんですよ。でも、今は壁がなくなって、カウンター前の面積が増えたので、いろいろ置けるように。

吉田 うちは上下の戸棚にギチギチに詰めているから、余裕のある収納だな、とまず思いました。

今井 最近のキッチンは奥行きがあるので、ガス台やシンク下の収納にいろいろ入るようになりました。ただ、吊り戸棚のような上の収納がなくて。

吉田 だからすっきりしているし、見せる収納が上手ですよね。

今井 基本的によく使うものを、自分が主に作業するキッチンカウンターの側に、収納するようにしています。それは愛さんも一緒ですよね。同じ仕事をしてるから。それにしても、久しぶりに台所を見せてもらって、道具が増えてるなあと感じました。

吉田 引っ越してすぐの時に来てもらいましたよね。その時に「あれ買いなよ」って言われて、フライ返しや少なかったフライパンを買い足しました。

今井 仕事が増えるにつれ、必要なものもわかってくる。徐々に道具を増やしていくことになりますよね。

吉田 そうすると、今の私のキッチンでは頭を使わないと、道具類を収納するのが難しくなってくるので。

今井 モノが増えても、空間が増えるわけではないから。出しっぱなしにしておくわけにいかないし。

吉田 だからホームセンターで、収納を増やす道具をいろいろ探しました。

今井 ガス台の角にコーナーラックを入れたり、いろいろ工夫している。限られたキッチン空間では、デッドスペースをいかに使うか、ですよね。

吉田 下にモノを置くと、今のキッチンは作業場が狭くなってしまうので、高さをつけて置くようにしています。作業スペースをいかに確保するか、がまず大事。シンクの上のデッドスペースにも、突っ張り棒を取り付けたり。

今井 自分も前のマンションで同じことしてました。いつも目の前に突っ張り棒がありましたから。

上下の造り付け収納を活用しつつ、デッドスペースや壁にもひと工夫。

【吉田さんの台所】左・冷蔵庫横のユニットシェルフにトースターやオーブンレンジ、炊飯器を。最上段はコーヒーセット、下段はバスケットに保存食をストック。右・リビングに向かって対面型のクローズドタイプのキッチン。吊り戸棚、シンクやガス台の下にも収納が。背中側には冷蔵庫と棚を配置。

リビングとつながったオープンな空間に必要な道具類をすっきりと。

【今井さんの台所】左・冷蔵庫横のスチールラックには、オーブンレンジ、トースターほか鍋、バットとガラスボウル、乾物などよく使うものが。右・キッチンカウンターの先にリビングが見渡せる、オープンタイプのキッチン。スペースとしては広くなくとも、開放感がたっぷり。

よく使う調味料は外に出して、食材も取り出しやすい場所に。

吉田 ちなみに、亮さんにとって使いやすいキッチンの基本は?

今井 最小限の動きで動けること、かな。屈んだりといった上下の動きもできるだけしたくないので。だから、冷蔵庫も野菜室が真ん中にあって取り出しやすいタイプにしました。野菜も調味料も、今は全部出してから作業に取り掛かるようにしています。

吉田 私のキッチンでは、調味料を全部出して置くとごちゃっとしてしまう。

今井 それはスペースに合わせて、ですね。食材や調味料を全部出して置くのが難しい場合は、調理を始める前に調味料だけは合わせておくのも手。調味料といえば、愛さんが使っている油のボトルが大きすぎません?

吉田 直接大きなボトルのまま使っています。

今井 僕は業務用のドレッシングボトルに、油を入れ替えていますよ。

吉田 小さなボトルに入れ替えるなら、油はシンク下にしまうのでなく、カウンターの上に出したほうがいいですよね? コーナーラックに置くとか?

今井 あそこには、基本的に一番使う塩や油を置いたらよいのでは。僕がいつも外に出しているのは、塩、砂糖、油、あとは片栗粉ですね。

吉田 私は砂糖と塩はボックスに入れています。今、コーナーラックには置き場所の決まっていなかった片栗粉と小麦粉があるけど、もう少し考えたほうがよいかな。

今井 砂糖と塩は大きな容器に入れておく必要ないですからね。うちみたいに小さくしてしまえば?

吉田 私は横に並べてではなく、縦に重ねて置きたい。場所をとりたくないから今の形になってしまう。

今井 うちは、砂糖と塩は小さいガラス瓶に入れています。普段は重ねて置いて、料理を始めたら広げています。

吉田 なるほど。私もまだまだ、ちょっとずつ改善して、ですね。

今井 料理をしていて「今日ここが引っかかったな」とかわかるので、少しずつ変えていくのもありです。

作業台下引き出し

【吉田さんの台所】作業台下の引き出しには、スパイスの小瓶や一緒に使うことの多いガラスのミニボウルを。すぐ取り出せてストレスフリー。

シンク下

【吉田さんの台所】シンクの真下には大きなボウル類を重ねて。左の取っ手付きボックスに小麦粉など、右のケースには掃除道具をまとめている。

作業台下

【吉田さんの台所】作業スペースの下に、よく使う醤油や油を引き出し式のラックに入れている。背の高いボトルは取っ手付きのボックスに。

コーナー&壁

【吉田さんの台所】コーナーのラックに調味料、近くにツール立てや砂糖、塩のボックス。壁にはすぐ手に取れるようマグネットラックによく使う道具を。

冷蔵庫

【吉田さんの台所】上段には取っ手付きボックスに塩麹などを立て、トレイには瓶類をまとめて。中段は惣菜、下段には調味料などを、ゆったり収納。

ガス台下

【今井さんの台所】こちらには常温保存の調味料がぎっしり。さすが、料理家ならではの数だが、これも幅のある収納引き出しのため楽々と保管ができる。

冷蔵庫ドアポケット

【今井さんの台所】向かって右の扉の中段には、甜麺醤、豆板醤、オイスターソースが。作業台から振り向いて、そのまますぐに手に取りたい調味料が揃う。

冷蔵庫野菜室

【今井さんの台所】野菜室が真ん中にあるので屈まずに取り出せる。中には、使いかけ野菜を入れるボックスも。まとめておくと使い忘れがなくなる。

窓際

【今井さんの台所】窓横の張り出しの上には、キッチンツールをスタンドに立てて。その下に、いつも使う調味料類を小さな容器に移して並べている。

シートやアクリル板を使って、よりキッチンを使いやすく。

吉田 どう改善しようかな。そう思うと5年かけて、今は徐々に動きやすくなってきてるかも……。使った道具は横でさっと洗えば、すぐまた使えるし。自分では気づかないけど、他人から見て「やっぱりこうしたほうがいいんじゃない?」って言ってもらえると。

今井 今日気づいたのは油、ですね。

吉田 ちょっと移す手間で楽になる、ということですね。反省です。亮さんはマグネット、使わないんですか?

今井 うちは壁がないので。でも、マグネット式のラックなどが壁に付くのはいいですよね。あれは別付け?

吉田 もともとあった壁です。マグネット式のグッズはいろいろ使えますよ。

今井 キッチンの壁に、マグネットシートを貼り付けたりもできそうです。うちでは床と壁に透明な汚れ防止用シートを使っています。壁は油が飛び跳ねたりするので、火に近いところだけ。

吉田 あと、ガス台の奥に立てている、アクリルの板もいいですよね。

今井 遮られているうちに換気扇が油を吸ってくれるので、あるとないとではぜんぜん違います。

吉田 オープンキッチンに必須ですね。

今井 こうして話してみると、やっぱりほかの料理家さんの家に行くと、おもしろい。新しい発見があったり。

吉田 いろんな料理家さんのキッチン、私も見てみたいです。

ガス台下

【吉田さんの台所】スチールラックで仕切って、コンロで使うフライパンや鍋類を収納。かさばる蓋は、専用ホルダーを取り付けて本体とは別に。

シンク上吊り戸棚左

【吉田さんの台所】ラップやジップ付き保存袋、キッチンペーパーなどは、仕切りケースを入れて整理している。バラバラにならず便利。

シンク上吊り戸棚中央

【吉田さんの台所】上段は製菓道具、中段は計量カップやバット、下段にお茶のカップなど。使用頻度の低いものは上段に、手の届く範囲によく使うものを置いている。

冷蔵庫脇シェルフ下段

【吉田さんの台所】最下段のバスケット内は、缶詰のストックや使いかけのパスタや昆布といった乾物類。見えないように収納しながら、引き出しやすい。

吊り戸棚下スペース

【吉田さんの台所】シンク上、吊り戸棚の下の細長いスペースには突っ張り棒が。クリップ付きS字フックで、細々したものをかけられるようにしている。

食器棚

【吉田さんの台所】上・リビング側に張り出したキッチンカウンター下部にピッタリ収まる食器棚を探した。上の引き出しはカトラリーや細々した型抜きなど。下・料理の撮影時にも使用する器、晩酌に登場するグラスなど、公私ともに活躍する一軍の食器類を集めてコンパクトに収納している。

シンク下

【今井さんの台所】細長い引き出しには、専用のラックを入れて、パッと取り出せるようフライパンを立てて収納。ステンレスのボウル類もこちらに。

食器棚(1)

【今井さんの台所】左・右写真の引き出しは、リビングの窓際に設えたユニットシェルフのもの。高さがないので、圧迫感なく道具類もゆったり配置。左・キッチン内に入り切らない道具はリビングに。奥行きのある布製の引き出しには、仕事柄よく使うさまざまなサイズの保存容器を常備。

食器棚(2)

【今井さんの台所】よく使う食器類は、スチールラックに収納してほこりがかぶらないよう、普段は布をかけている。いつも使うエプロンなどもこちらに。

壁・床シート

【今井さんの台所】ガス台近くの壁は、透明なシートを貼って油汚れからガード。床にも同じシートを敷いて。年に1回張り替えるだけなので楽ちん。

油はね防止板

【今井さんの台所】ガス台のすぐ先は食器が並ぶラックがあるので、油が跳ねてかからないよう、アクリル板をレンジフードに自分で設置。
吉田愛

吉田愛 さん (よしだ・あい)

料理家、唎酒師

本格和食から酒肴まで提案し、雑誌やメニュー開発で活躍中。著書に『"だし"を使わなくてもおいしい煮物』『お弁当にもおつまみにもなる作りおき』。

今井亮

今井亮 さん

料理家

雑誌やTV、ウェブなど幅広く活躍するほか、中華料理を中心とした、料理教室も主宰。近著に『そそる!うち中華』『旬中華』『野菜で中華』など。

『クロワッサン』1103号より

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