泉麻人さんがつれづれに語る、日本歌謡曲の秘話(エピソード)。
撮影・青木和義、小川朋央、黒川ひろみ イラストレーション・村上テツヤ 構成&文・堀越和幸
昔うちにはお手伝いさんがいたことがあって、その女性はクリスチャンでよく僕を教会に連れて行ってくれたんです。で、その時に彼女がよく口ずさんでいたのが、♪春のうら〜ら〜の〜、隅田川〜。
日本古謡の『花』ですが、幼いから意味がわからず、「うらら」というのもまた呪文めいていて、僕はてっきり「うらら」が教会を意味するもんだと思ってました。
日本には花をモチーフにした歌謡は多いです。そしてそのヒット曲には、へえ、という意外なエピソードを持つものが少なくない。
『赤いスイートピー』といえば松田聖子さんですが、この曲がヒットするまではスイートピーといえばピンクが主流で赤はほとんど栽培されなかったそうです。曲が花の色を塗り替えた。
山口百恵さんの『秋桜(コスモス)』もエポックメーキングでした。コスモスの花を「秋桜」と漢字に当てたのはこの歌が初めてで、今ではコスモスとキーを叩けば当たり前のように「秋桜」と変換されますから。
布施明さんの『シクラメンのかほり』のシクラメンに本当に香りがあるかないかは嗅いだことがないので知りませんが、彼は昭和40〜50年代に薔薇の歌をよく歌った。
『バラ色の月』とか、『君は薔薇より美しい』とか。布施さんの声を吐き散らすような歌唱法がバラという語感に合っていたのではないか。
ちなみに「シクラメン」の作詞は小椋佳さんで、彼は銀行勤めをしていたことでも話題になりました。
花モチーフの歌ではユーミンもはずせませんね。荒井由実時代の『花紀行』が僕は好きだった。
松任谷由実時代で思い出すのは、日暮れまでれんげを編んだ『守ってあげたい』とか、中央分離帯で揺れていた『カンナ8号線』あたりでしょうか。カンナはユーミンの自宅近くの原風景だったとも言われてますね。
あとは『ダンデライオン』ってのもありました。ダンデライオンはタンポポですが、あれは花でなく、葉の形がライオンのギザギザの歯(=ダン・ド・リオン)に似てるから付いた名前なんですよ。知ってました?
『クロワッサン』1092号より
広告