ウー・ウェンさんが伝える、中国家庭料理の定番「肉餅(ロービン)」
真佑さんは、ウーさんにぜひ教わりたい小麦粉料理があるという。
それは肉餅(ロービン)。たっぷりの豚肉を薄皮に包んで焼いた中国の代表的家庭料理だ。
撮影・青木和義 構成&文・太田祐子
“重ねて盛り付けると、保温効果もありますよ!”
2年ほど前からウー・ウェンクッキングサロンのアシスタントを務めている井上真佑さん。大学時代からの交際を実らせ、昨年、ウーさんの長男とコロナ禍で延期していた結婚式を挙げた。先生であり、義母でもあるウーさんの代名詞的レシピの水餃子は上手に作れる真佑さんだが、肉餅は今ひとつ苦手意識があるのだそう。
ウーさん(以下、ウー) 肉餅はね、中国ではどこの家でも作る家庭料理の定番です。これひとつでタンパク質も脂質も炭水化物も摂れるから、野菜のスープを添えれば完璧な献立ですよ。
真佑さん(以下、真佑) 生地を丸くのばすのが上手じゃなくて。でも肉餅はおいしいし、夫の大好物だから上手に作れるようになりたいです。
ウー じゃあ、まず小麦粉に水分を入れて(箸で粉と水を素早く混ぜていく)。
真佑 (混ぜながら)水餃子に比べて肉餅の生地はとても柔らかいですよね。
ウー そう、柔らかいの。粉が水分を吸収したら、手先を使って生地をまとめて。ほら、こんなかんじ。
真佑 あれ? 私のだけなぜかベタベタしてる(生地が手先、ボウルに張り付いている)。
ウー ん? 同じ材料ですよ。
真佑 ひえー。もうぜんぜん違う。
ウー うーん。真佑は粉に対する優しさが足りないのかも(笑)。粉が気持ちよくまとまるにはどうしたらいいんだろうって考えないといけないのよ。
真佑 確かに考えてなかったー。(それでも一生懸命こねる)だんだんくっつかなくなってきました。あきらめないでやればちゃんとできますね。小麦粉の様子を見てあげないといけない。
ウー どう?
真佑 はい、けっこう(生地が)かわいくなりました。
ウー うん、きれいになりました。
真佑 いつも先生が「小麦粉を支配しないといけない」ってお話をするんですけど、確かに先生は支配してる。私はむしろ小麦粉に振り回されてる……。
ウー そうそう、小麦粉をご機嫌にさせないといけないのよ!
真佑 やっぱり生地から難しい。だから肉餅を作ってなかったような気がする。お米炊いたほうが早いかもって。
ウー でもおいしく作れたら肉餅はみんなに喜ばれるからね。次は成形ね。
真佑 最初がかんじんですね。
ウー そう。生地を丸くのばそうと思うと、最初から丸くしないといけないよね。生地の下に打ち粉を多めに振って。直径18cmくらいにまでのばすよ。
真佑 あ、ついちゃった(生地が麺棒にくっつく)。もう先生と違う。どうしてくっつくんですか、私の子は。麺棒に打ち粉してなかったですよね?
ウー してないよ〜。真佑はやっぱり優しさが足りないのよね。力任せだから。たぶん生地の下もくっついてるよ。
真佑 あ、くっついてる〜(笑)。優しさ問題!(のばした生地が台形になっている)おかしい。丸だったはずなのに。うまくできちゃうかもって思ったらもうつまずいた。くじけそうです。
ウー 丸くならない問題ね(笑)。そして、ここ厚くてここ薄いね?
真佑 バレました?
ウー 誰が見たってわかります。この時点ではまだ取り戻せるんです。こうして寄せてあげる(薄くなった部分の横の生地を寄せる。厚い部分は麺棒でのばす。ウーさんが手を入れるたびにきれいな丸に近づく)。
真佑 わー、なぜなぜ?
ウー ん? 愛情が違うから(笑)。みんな失敗を積み重ねちゃうんですよね。小麦粉はね、ものすごく言うこと聞いてくれるのよ。だから失敗してもすぐ軌道修正すればいいんです。
真佑 おかしいと思った時点で立ち止まらないと。私はそのままつき進んじゃう。包めばなんとかなると思って。
ウー なりません!
真佑 いつか生地がなんとかしてくれるんじゃないかと。
ウー なりませーん、無理〜! さあ、餡を生地にのせよう、均等に。餡が平らじゃないと生地も均等にのびないよ。
真佑 確かに。
ウー いいんじゃない?
真佑 はい!(生地をかぶせて閉じる)あ〜!(生地から餡がはみ出す)
ウー 大丈夫! 餡を指で押し込んで、生地をのばして閉じる。閉じ目がわからないくらいきれいにね。ここ大事よ。
真佑 けっこうグイッと餡を中に押し込んでやるんですね。
ウー 何もしてないのにはみだしちゃったって思ったんでしょ。
真佑 そう!
ウー 人のせいにしないのよ〜。自分が努力するのよ〜。じゃあ、全部閉じちゃおう。打ち粉も大切なのよ。たぶんこれ、またくっついてるから。
真佑 わーん、デジャヴ!
ウー こうなると、絆創膏が必要です。生地が薄くなってるところにちょんちょんと粉をつけて。肉からも水分が出るから、こうしておくと後で生地になってくれる。はい、のばしてください。
真佑 はい、優しく!(と生地の端のほうから麺棒を動かそうとする)
ウー ううん、端からじゃなくて中央から。均等にのばせるでしょ。
真佑 本当だ。なるほど〜。
ウー ね。真ん中から上下左右に動かす。くっつきそうな時には打ち粉を使って。車の運転と同じだよ。前だけ見てればいいってものじゃない。
真佑 はい。じゃあ、焼きます!(生地を手のひらにのせようとしたその時)ひえ〜破れた〜。
ウー はい、また絆創膏(笑)!
真佑 よし、今度こそ。(肉餅をフライパンの中に。と、生地がよれてぐにゃり)大丈夫! 先生もこうやってた(生地をならす)。ふう。焼くのは上手にできた。あとは切って。でも見た目が全然違う。私のは固くてところどころ小麦粉っぽい……ピザなのかな(笑)。
ウー 固くなってるのは生地が均等にのびてないから。生地が均等でちゃんと閉じてれば、餡も生地もしっかり蒸し焼きにされてふんわりできあがるの。
真佑 は〜、重労働でした。
ウー なんか私、すごい鬼姑みたい?(笑)でも正直言って、私も母が作る肉餅にはとうてい及ばない。母のはほとんど形にならないような柔らかい生地をきれいにまとめてしっとりふんわり、本当においしいの。そう考えると私もまだまだです。
真佑 先生でもそうなんですね。
ウー やっぱりある程度経験ですよね。でもね、こうやって、真佑が我が家の味を受け継いでくれるのはうれしいですよ。息子にとってはおふくろの味だから。先日も息子のお腹の調子が悪いからって、何を作ってあげればいいのか聞いてくれて。ああ、ちゃんと気にしてくれてありがたいなあって。
真佑 はい。肉餅、もっと上手に作れるように練習しないと。でも「この小麦粉感も俺は好きだけどね」って彼は言ってくれそうです。
――やさしい〜(スタッフどよめく)。
ウー 私の育て方がいいんです!(笑)
肉餅
【材料(1枚分)】
薄力粉 100g
ぬるま湯 60ml
太白ごま油 大さじ1/2
豚薄切り肉 200g
A[黒こしょう 少々、酒 大さじ1、しょうゆ 大さじ1、オイスターソース 小さじ1、しょうが(みじん切り)大さじ1、長ねぎ(みじん切り)20cm分、ごま油 大さじ1/2]
1.生地を作る
2.餡を作る
3.成形する
4.焼く
5.切る
『クロワッサン』1091号より