『乙女の東京案内』著者、甲斐みのりさんインタビュー。「東京という街こそが私のアイドルです」
撮影・永禮 賢 文・鳥澤 光
「東京という街こそが私のアイドルです」
旅や建築、ホテル、お菓子、包み紙、パンにアイスに暮らしのこと。甲斐みのりさんが愛し、言葉を紡いで紹介するジャンルは幅広い。そしてそれらは〈乙女〉の視線を基調として選び抜かれている。甲斐さんの最新刊『乙女の東京案内』は、〈乙女という言葉に、どんなイメージを持ちますか?〉という言葉からはじまり、〈ときめく心を持つ人やこと〉と鮮やかに定義されて進んでいく。
「竹久夢二さんや中原淳一さん、長沢節さんの本を読んだり展示を見たり、自分なりの美意識を持ち、美しいものに目を向けることの大切さを学んだのが10〜20代の頃。そして、私にとって初めての東京についての本『乙女の東京』を書いたのが2007年のことでした」
続けて『乙女みやげ』『乙女の大阪』と題した著書を発表。そこから15年が経ち、〈乙女〉という言葉の意味合いや射程距離の変化を感じるようになった。
「今、改めて東京を案内する本を作ろうというときに、まずは〈乙女〉とは何か、ずっと考えてきたことを書きたいと思ったんです」
白鳥のシュークリームに、かわいい〜と歓声をあげる子どももいれば、ギンガムチェックのテーブルクロスにときめく大人の男性もいる。何かを見て、触れ、味わうことで心が震える瞬間は、年齢や性別にとらわれるものではない。
「それは〈乙女心〉と呼ぶとしっくりくる、誰もが持つ共通の感覚。そういう意味では、人は誰もが〈乙女〉なのだと思います」
乙女心を震わせる都内52のスポット。
そうして編まれた一冊で、「甘いひととき」「童心にかえる」から「乙女と東京」まで、喫茶店、博物館や美術館、クラシカルな名建築、夜を過ごすバーや居酒屋などのスポットをコラムと写真で見せる。さらに「乙女の東京カタログ」と題し、お菓子や日用品、本に雑誌に歌謡曲、映画も並べて東京の多面的な魅力を解き明かす。
「“推し”という表現や活動も一般的になってきましたが、私にとっては東京という土地、そこにひしめきあう店や風景こそがアイドルのように愛でたいものなんです。好きだから通いたい。応援したい。みんなに知ってほしい。古いものばかりでなく、新しくても、きらびやかでも渋くても、訪れれば心がどうしようもなく浮きたってしまう。そのうえ、独自の物語を秘めている場所ばかりです。それらの物語は眺めているだけではわからないから、お店の人や詳しい人に話を聞いたり、書かれたものを読んだり、繰り返し訪れたりする。真っ白だったノートが、対象を知れば知るほど、好き!という印で埋められていくような感覚です」
東京の街は変化が速く、風景は目まぐるしく移り変わる。
「消えてしまうお店や風景こそ、本に残しておきたいと考えて、『思い出の東京』を集めたページも作りました。この本を読むことで、いくつもの景色に出合ったり再会したりしてほしいです」
『クロワッサン』1089号より
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