くらし

民藝に日本画、現代美術…個性的な建築やアートに心奪われる、京都での美的体験をここで。

様々な角度から美の世界を探求できるのも京都の魅力の一つ。
口コミであがったアートスポットを紹介します。
  • 撮影・仲尾知泰 構成&文・矢吹紘子

| 清水五条 |河井寬次郎(かわいかんじろう)記念館

「みんげい おくむら」主人・奥村忍さん、ライフスタイルコーディネーター、 パフューマー・山藤陽子さんオススメ

趣のある日本家屋でもの作りの真髄に触れる。

建物は昭和12年に河井本人の設計により建築。2階には寝室と仕事場、そして客間としても使われた写真の居間が。手は代表的なモチーフで、ものを生み出す人間の手への尊敬の念が込められているのだという説も。造作の異なる、手を象った木彫りを目にすることができる。

大正から昭和にかけて活動した陶芸家で、民藝運動の中心人物でもあった河井寛次郎。

仕事場の傍らには臼をひっくり返したテーブルと手作りの椅子が。敷地内には実際に使っていた登り窯も残されている。

ここ河井寛次郎記念館は、氏のかつての住まいである木造建築の邸宅を公開したミュージアムだ。

墨で描かれた貴重なスケッチの数々も惜しみなく展示。

様々な陶芸作品に加え、どことなくユーモラスな木彫り作品、木の温もり溢れる家具。

右・愛らしいうさぎの木彫り作品。ほかにも犬や猫など、バラエティ豊かな動物たちが。作品は東京の国立近代美術館や日本民藝館をはじめ、京都のアサヒビール大山崎山荘美術館などにも収蔵されている。中・1階では関連書籍やオリジナルグッズも販売。猫のカードスタンド740円。左・お土産にも喜ばれそうな和紙シールセットは4枚入りで600円

それらが日常生活に溶け込むようにさりげなく飾られた姿は、まさに〝用の美〞の精神そのもの。まるで知人の家に招かれたような気分で、力強い手仕事の軌跡を辿り、体感することができる。

施設は親族によって運営されていて、学芸員の鷺珠江さんは孫にあたる。作品についてはもちろん、身内ならではのエピソードも教えてくれるので、ぜひ話しかけてみて。

●京都市東山区五条坂鐘鋳町569
TEL.075・561・3585 10時~17時(入館は閉館の30分前まで) 月曜休(祝日の場合は翌火曜休)、夏季・冬季休館あり 大人900円 年に4回展示替えあり。

| 岡崎 | 京都市京セラ美術館

「くるみの木」主宰・石村由起子さん、山藤さんオススメ

古典から現代美術まで。建築好きも必見!

アートに触れた後は併設のカフェ『ENFUSE』へ。見た目にも愛らしい季節のショートケーキ850円と、カフェラテ800円でほっと一息。京都産の素材を使ったランチのおかずプレート(1,750円)も人気だ。

2020年春にリニューアルした京都市京セラ美術館は、1928年に挙行された即位の大礼を記念して建設が始まり、1933年に完成。

右・天井高16mの開放的な本館 中央ホール(旧 大陳列室)は、建物のシグネチャー的なスペース。左上・1階にはかつてのエントランスホールがそのまま残されている。精巧なディテールに思わず見入ってしまう。左下・中央ホールの螺旋階段も現役。上から見下ろす光景もまた絶景なのだ。

建築家・前田健二郎による帝冠様式の威風堂々たる建物の魅力はもちろん、新たに増設され、話題の企画展を連発している現代アートの展示スペース「東山キューブ」や、日本有数の作庭家が関わった日本庭園、気さくな雰囲気のカフェ『ENFUSE(エンフューズ)』など見どころが尽きない。帰り際にはお土産チェックもお忘れなく。

上・日本庭園は明治期に活躍し、平安神宮の神苑などを手がけた名作庭家・七代目小川治兵衞の監修とされている。すぐ隣には「東山キューブ」。現代アートのほかファッション、建築デザインなどコンテンポラリーなテーマの企画展が話題を集めている。右下・ミュージアムショップ『ARTRECTANGLEKYOTO(アート レクタングル キョウト)』はオリジナルグッズから食品まで充実の品揃え。京都発の無農薬農園ブランド〈坂ノ途中〉の煎茶30g 936円。左下・国内の職人が手作業で仕上げたロゴ入り茶筒(大)直径9cm 1,188円。

展示情報

美術館には近代以降の京都の美術作品約4000点を所蔵している。開館90周年を迎える2023年秋には日本画界の重鎮、竹内栖鳳(たけうちせいほう)の展覧会を開催予定。

竹内栖鳳《絵になる最初》 1913年 重要文化財 京都市美術館蔵

東山キューブでは6月4日までデザイナーやアーティスト、工芸職人なども参加する『[特別展]跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー』を開催中。

TAKT PROJECT 《glow ⇄ grow : globe》 2019年 Photo : Takumi Ota (参考作品)

●京都市左京区岡崎円勝寺町124 
TEL.075・771・4334 10時〜18時(入館は閉館の30分前まで) 月曜休(祝日の場合開館) コレクションルーム一般730円(京都市内在住者520円) 企画展は別料金。

| 衣笠 |京都府立堂本印象(どうもといんしょう)美術館

石村さんオススメ

建物自体が作品! 精緻な美の世界に浸る。

上・2階の展示室へ向かう階段のしつらえ。手すりや壁のアートなど、細かなデザインに心を奪われる。右下・きらびやかな1階エントランスホール。1966年に個人美術館として開館し、1991年に京都府へ寄贈された。左下・2階に並ぶ木彫りの椅子は、ヨーロッパの教会のチェアなどにインスパイアされたもの。実際に座ることもできる。

壁一面に表現されたダイナミックかつ繊細なレリーフに、まず圧倒される。おとぎ話の家のような佇まいの堂本印象美術館は、20世紀初頭から半ばにかけ活動した芸術家・堂本印象が自ら設計デザインも手がけた、いわば彼の集大成。その美意識は扉の取っ手からフロアの表示まで、隅々に反映されている。仏教美術の影響が色濃い初期の作品や、渡欧を経て確立した抽象表現の絵画など、展示物も含め、まさに唯一無二。

右・数パターンの柄が楽しめるオリジナルのレターセット600円。マスキングテープ(400円)も人気。左・地元の和菓子店『笹屋守栄(ささやもりえ)』とコラボした羊羹「光る窓」1,250円。ロビーのガラス装飾《蒐核(しゅうかく)》をイメージしている。

展示情報

3月26日までコレクション展『音のハーモニー ―印象が奏でる風景―』を開催中。大正期に描かれた小唄絵や、昭和時代初期の宗教画、戦後の代表的な抽象画《交響》など、堂本印象の収蔵品の中でも音楽へのインスピレーション溢れるピースが並ぶ。

●京都市北区平野上柳町26・3 
TEL.075・463・0007 9時30分〜17時(入館は閉館の30分前まで) 月曜休(祝日の場合は翌火曜休) 一般510円

| 岡崎 |細見美術館

セレクトショップHAURA経営・山口れいこさんオススメ

琳派から若冲まで。江戸絵画ならここへ。

京都の『COOKIE CUTTER MUSEUM』のアートなクッキー型各1,100円。おなじみ若冲の鶏モチーフと、江戸後期の琳派画家・中村芳中の犬型。

毛織物で財を成した実業家・細見良のコレクションに端を発する美術館。現館長の細見良行さんは孫にあたり、神道・仏教美術、茶の湯の美術など、受け継がれた貴重な作品を選りすぐって展示する。

右上・年に4回ほど、所蔵するコレクションを中心にテーマを決めて展覧会を開催する。こちらは2月まで開催されていた『江戸時代の絵画』展の様子。左上・最上階の茶室「古香庵」(予約制)は数寄屋建築の名匠・中村外二の遺作。下・若冲の《花鳥図押絵貼屏風》(左)など、江戸絵画のコレクションも充実。酒井抱一、鈴木其一といった錚々たる琳派絵師の作品を所蔵する。

なかでもほぼ全ての作家を網羅する琳派の作品や、京都ゆかりの画家・伊藤若冲のコレクションは一見の価値あり。地階に若冲モチーフのスイーツがいただけるカフェ、最上階には東山を見渡す茶室も。

右・地階の『CAFÉ CUBE』(16時30分LO)は観覧券なしでも利用可能。名物は塩キャラメルロールケーキの若冲セット1,400円(ポストカード付き、単品1,000円)。ランチコース1,500円〜も。左・金魚柄の「琳派布香合」2,310円。ほかにアヒル柄やお揃いの御朱印帳(2,200円)なども販売。

展示情報

5月31日まで特別展『香道 志野流の道統』を開催中。室町時代後期に誕生した"香道"の家元、志野流にフォーカスし、初代志野宗信から現家元20代幽光斎宗玄まで、500年にわたる歴史を紹介する。香図本や文献、蘭奢待(らんじゃたい)など貴重な名香も展示。

●京都市左京区岡崎最勝寺町6・3 
TEL.075・752・5555 10時〜17時(入館は閉館の30分前まで) 
月曜(祝日の場合翌火曜休)・展示入替期間休 
入館料は展覧会により異なる 京都市京セラ美術館または京都国立近代美術館の観覧券提示で割引あり。

| 祇園 |何必館(かひつかん)・京都現代美術館

料理研究家・井原裕子さん、山口さんオススメ

まるで空中庭園! 祇園の隠れた美術館。

楕円形の天窓から差し込む光が、時間によって緩やかに移動する様子もまたアート。

村上華岳や山口薫、日本美術史に名を残す画家たちと、北大路魯山人の作品を柱として1981年に開館。

右・アンリ・カルティエ=ブレッソンなど、世界的な写真家集団、マグナム・フォトの作品も数多く所蔵している。ブレッソンのポストカード(8枚セット)1,000円。左・オリジナル一筆箋(2冊セット)1,000円。

近年は国内外の写真家の企画展を精力的に開催するなど、ジャンルを超えたエキシビションで魅了する。

1階から3階、最上階の5階は企画展の展示室。写真は2月まで開催されたエリオット・アーウィットのエキシビションの様子。

ここでは苔庭と茶室を擁する最上階を必ず訪れたい。丸い天窓から差し込む日差しと、控えめにそびえ立つ紅葉の木の美しさ。それらを目の前に眺めるソファ席は、隠れファンも多い穴場アートスポットなのだ。

魯山人は館長の梶川芳友さんが美術に目覚めたきっかけとなった作家の一人なのだそう。地階には花入れや椀など貴重なコレクションを常設で展示している。写真は《つばき鉢》(1938年)。鉢が置かれた敷板も隠れた見どころで、東大寺の古材などこだわりの素材を使っている。

●京都市東山区祇園町北側271 
TEL.075・525・1311 10時〜18時(入館は閉館の30分前まで)
月曜・展示入替期間休 一般1,000円

『クロワッサン』1089号より

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