年々盛り上がるクラフト蒸留酒。2人のプロが語る人気の背景。
気鋭のバーテンダーとスピリッツ専門家、2人のプロが語る、人気の背景とは?
撮影・兼下昌典 文・藤森陽子
大場 スパイスドラムは甘くてデザート的なお酒の印象でしたが、これは甘くなくていいですね。クラフトコーラと割ってもよさそう。
小林 ビターチョコも相性がいい。実験的なことができるのもマイクロ(小規模)蒸留所の面白いところですね。
大場 同感です。僕はやはり『アルケミエ辰巳蒸留所』から。オーナーの辰巳祥平さんはマイクロ蒸留所の先駆け的な方で、辰巳さんの下で研鑽を積んだ蒸留家も多いです。月ごとに新作ジンを発表し、薬瓶をボトルに活用したり、毎年ラベルのデザインをアーティストに依頼したりと、こうしたスタイルが今の日本のクラフトジン界の指針になっていると思います。
次は今年登場した『媛囃子(ひめばやし)蒸留所』。東京・清澄白河のワイナリー『フジマル醸造所』と愛媛の老舗焼酎蔵が組み、自分たちのワインを蒸留してブランデーにする試みをスタートさせたんです。
小林 すごくフルーティーでおいしいですね。蒸留所と醸造所のコラボってあまりないから、面白いなあ。
大場 新しい潮流ですよね。これは山形産のシャルドネ100%で、日本のぶどうの味がするのがとてもいい。本来ブランデーは華やかなフルーツのお酒なので、もっと女性に知ってほしいです。
最後は今注目している『越後薬草』。もともと酵素カプセルを製造する会社で、酵素を作る際に出る副産物から生まれたジン。ベースに80種類もの発酵ボタニカルを使うなんて酵素の会社だからこそできることですし、世界的にも珍しい。社長を含め若いチームが頑張っているのもいいですね。
小林 さすがのセレクトです。僕は東京・蔵前の『エシカル・スピリッツ』も注目しています。店名どおり、日本酒の酒粕や余剰のビール、カカオの殻など、廃棄予定だった材料でジンを造っていて、お酒好き以外にもアプローチしているところに新しさを感じます。
大場 エシカルやSDGsをテーマに、味もきちんと追求していますよね。
水割りやお湯割りの食中酒で、〝家飲み〟の定番アイテムに。
小林 先ほど話したとおり、クラフト蒸留酒は土地のボタニカルを使う分、風味に地域性が顕著に表れるので、その土地を想像できるのが楽しいです。
大場 フランスのジンは香水に使うベチパーというハーブが主体なので、いかにもパリっぽいし、アメリカのジンは骨太でマッチョな味……とか。
小林 巨大なステーキに合いそうな。
大場 そうそう(笑)。北欧に行くとベリーなどを使った冷涼な感じになり、日本は“旨味”の文化圏で。
小林 ええ、焼酎をベースにしたジンなどは、ドライというより旨味を感じるものが多い。海外では無味無臭のベーススピリッツにボタニカルで色付けをしていくタイプが主流ですが、日本はベースとなるお酒自体の味や旨味まで追求している印象があります。個人的には今、ものすごく焼酎の可能性を感じるんです。
大場 ヨーロッパ発祥のブランデーやウイスキーが食後酒なのに対し、焼酎は水やお湯で割って食事と一緒に味わう世界的にも稀有な蒸留酒なので、焼酎ベースのジンも食中酒になりやすい。家で飲む場合も“フレーバー焼酎”の感覚でいいと思うし、クラフトジンそのものを“ハーブのお酒”と考えて、気軽に楽しんでほしいです。バジルを添えたジンソーダは簡単で食事に合うし、寒い季節はお湯で割るとジンの香りが開くので、ハーブティーやはちみつレモンに数滴たらすのもおすすめ。ちなみにジンソーダは炭酸を消さないように混ぜすぎず、氷に当てずに注ぐのがコツ。ジンはグリーンカレーや蒸し料理にも合いますよ。
小林 僕は自分の店では水割りで飲むことをおすすめしています。ハーブウォーターの感覚に近いというか、割ることでジンのキャラクターがより出てきますしね。それから、日本のジンは意外に和菓子と合うんですよ。
大場 ワインでいうテロワール(その土地が持つ個性)の風味を楽しむ感覚ですよね。僕はかりんとうもいいな。
小林 お米のウォッカは酢の物やマリネにも合いますよ。ワインやウイスキーは、専門用語の知識がないと話に困りますが、ジンやフルーツブランデーはラベンダー、シナモン、洋ナシなど、誰もがわかる語彙で情報交換できるので、決してハードルは高くない。ハーブやスパイスの名称は、お菓子や美容などでむしろ女性に馴染みがあるのではと。蒸留酒は劣化しないので常温で長期保存できるのも魅力ですね。
大場 ええ。価格帯はだいたい4000円台〜1万円前後と一瞬高価に感じるかもしれませんが、少しずつ長く味わえるので、実はワインなどに比べると良心的だと思います。ラベルも香水瓶の横に並べて置けるような凝ったデザインのものが多いので、インテリアとしても映えますよ。
小林 “ガウン姿でブランデーグラス”時代から、“ハーブのお酒”感覚でオシャレに家飲み、ですね(笑)。
●大場さんおすすめのジンカクテル
大場さん「ハーブウォーター感覚で〝食中酒〟として楽しんで。」
ハーブジンソーダ
ジンのハーブティー割り
はちみつホットジン
小林さんおすすめのペアリング
小林さん「緑茶や黒糖が香る蒸留酒は甘味ともよく合います。」
ジン×最中
ウォッカ×柿
『クロワッサン』1082号より
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