クラシック音楽の入門編にも。ヴァイオリニスト・宮本笑里渾身の作品、デビュー15周年記念アルバム。
撮影・小川朋央 ヘア&メイク・福島加奈子 スタイリング・森本美砂子 文・神舘和典
音楽家の覚悟が音ににじむヴァイオリンの作品集。
「これが最後のアルバムになっても悔いが残らないように――」
ヴァイオリニストの宮本笑里さんはデビュー以来思い続け、一枚一枚大切にレコーディングしてきた。
「先がないという危機感が常にあり、全力で臨んできた15年です」
練習と本番を重ね、デビュー15周年を迎えた。7月に記念アルバムもリリース。タイトルは『classique deux』。2018年の『classique』に続くクラシックの小品集だ。
「ふだんクラシックを聴いていない方々には入門編としても楽しんでいただける内容です。誰もがどこかで聴いたことのある楽曲、メロディを12曲選び抜きました」
渾身の作品になった。
「今の私をすべて表現できたと思っています。デビュー時は全曲クラシックのアルバムは作りませんでした。私の技術も心もさらけ出されてしまうので、怖かった。やっと覚悟をもってレコーディングできました」
今回必ず収録したいと思ったのは、ラヴェルの「ツィガーヌ」。
「高校生のときに初めて演奏した、私のルーツです。学生時代は弾くだけで精いっぱい。試験でも苦しみました。デビュー後、コンサートでは演奏しています。私らしい演奏はできている? 自分が歌っているかのようにヴァイオリンを演奏できている? 自分に問いかけて弾いてきました。この曲はとくに休符の部分が大切です。音符と音符の間でも表現できているか――強く意識しました。技術だけでなく、心も試されます」
レコーディング前は3カ月間、毎朝「ツィガーヌ」を練習した。
「目覚めたばかりの、脳も筋肉も覚醒していない状態で満足できる演奏ができれば、レコーディングできる。そう信じて練習を重ねました」
演奏にはその音楽家の心象、生活、人生が描き出される。デビューした後に結婚して、子どもができたことも、宮本さんの音楽を変えた。
「母親は子どもを守らなくてはいけません。強くなった気持ちが音にも表れました。体幹や筋肉も強化されています。それまでは、私、腕の負担になることを一切避けて暮らしてきたんですよ。買ったお米も自分では運べず、スポーツもやらず。ところが子どもを抱くことによって体力が充実して、ヴァイオリンの音が太くなりました。そういう女性としての変化も、アルバムから感じていただけると思います」
『classique deux』
▶︎Play List
01. ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女(ハルトマン編)
02. ホルスト:木星 with 福川伸陽
03. ショパン:夜想曲 第20番嬰ハ短調 遺作(ミルシテイン編)
04. ファリャ:スペイン舞曲第1番
05. シューマン:トロイメライ
06. モンティ:チャールダーシュ with 新倉瞳 タンゴ・メドレー with 川本嘉子
07. ゲーゼ:ジェラシー
08. ガルデル:首の差で
09. ピアソラ:リベルタンゴ
10. フォーレ:夢のあとに
11. ラヴェル:ツィガーヌ
12. バッハ:G線上のアリア(ヴィルヘルミ編)
ワンピース11万2200円(エリザベッタ フランキ/エスケーシー TEL.06・6245・3171)
『クロワッサン』1078号より
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