くらし

離れて暮らす親と同居すべき?【介護の悩み相談室・同居編】

「離れていてもちゃんと介護できる?」「罪悪感を感じてしまう」……
ジャーナリストの太田差惠子さんが、別居介護にまつわる疑問と悩みに答えてくれました。
  • イラスト・古谷充子 文・天田 泉

Q.一人暮らしの母を呼んで同居するか悩んでいます。

高齢の親を心配する気持ちはよくわかります。母親が一人暮らしなら、なおさらですね。ただ、今の親世代は、圧倒的に地元での暮らしを望む方が多いです。一人暮らしの高齢者の意識調査でも、大半の人が今の暮らしを続けたいと望んでいます。

実際、子どもと同居したものの見慣れない景色の友人や知人もほとんどいない土地で、唯一頼りの子どもたちは仕事や子育てに忙しくて、なかなか相手にしてくれない……。ぽつんとひとりぼっちで孤独感にさいなまれ、逃げ帰るようにして元の家に戻ってしまった。そんな失敗例は少なくありません。

親と子の人生は別々のものです。自分の気持ちを押しつけるのではなく、まずは親の意思を確認することが先決です。

Q.高齢の父は、都会暮らしに馴染めるでしょうか?

自分でもどんどん外に出られる元気な親なら、新しい暮らしをたのしめるかもしれません。しかし、介護の必要がある世代となると新しい環境に慣れるのはなかなかむずかしいでしょう。

田舎は家も庭も広いですが、都会の住宅では狭くなる場合がほとんどです。料理の味つけをはじめ、生活のさまざまな違いに馴染むのは、容易なことではありません。また、ご近所づき合いなど、長年かけて築いてきたコミュニティを離れ、新たな関係を築くのも簡単ではないと思います。

もし、親が若い頃に一度でも子どもの暮らすエリアに住んだことがあるならいいかもしれませんが、そうでなければよく話し合ったうえで、慎重に決めたほうがお互いのためだと思います。

Q.本当に同居を望んでいる? 母の本心が気になります。

両親の性格にもよりますが、「せっかく呼び寄せてくれたのだから」と、子どもに気を使って、本心では望まないのに無理して同居に踏み切る人はいます。

また、一度子どもの申し出を断ると、本当に弱ったときに助けてもらえないかもしれないと思い、泣く泣く同居したという話も聞きますね。

そうした微妙な気持ちまで配慮しつつ、親の考えを聞けるといいですね。言葉でなくとも、そのときの表情や態度で本音を知ることができるかもしれません。

Q.子どもに手がかかってやはり同居は無理かも。

親の介護が必要になったとき、だいたいの人は一度、親と同居するかどうか、実家に帰るかどうかを考えるものです。でも、子どもや配偶者などの今の家族のことや、仕事のこと、住宅事情の問題から、実現がむずかしい場合が多い。そうして結果的に遠距離介護や別居介護を選ぶケースがほとんどだと思います。

たいていの親は「子どもがそばにいてくれたら、安心」と思っていますが、同時に「子どもには子どもの暮らしがある」ことも理解しています。さらに先ほどもお話ししたように、今の生活環境を変えたくない人も目立ちます。

お互いの生活を守る意味でも、別居介護という選択肢はありだと思います。

別居介護のメリット・デメリット

●メリット

・親子それぞれが、住み慣れたところに暮らせる。

・仕事や日々の生活を維持できる。

・ときどきしか会えないので、互いにやさしくできる。

・高齢者だけの世帯になるため、利用できる公的サービスの幅は同居より広い。

・特別養護老人ホームへの入居が、同居より優先されやすい。

●デメリット

・距離が離れているので、いざというときに心配。

・会うためには、時間、体力、お金(交通費)が必要。

・周囲から「冷たい子」と思われることがある。

離れて暮らす親の介護は“マネジメント”です。

一般的に「介護」は、食事や排泄、入浴の介助をすることを言います。ただ、離れて暮らす親の介護の場合は、マネジメントをすることだと私は考えています。

親と別々に暮らしていると、そもそも日常的な介助は無理ですし、家事を手伝うことも帰省したときに限られます。

別居介護でまず必要なのは、親の状況を把握して、暮らしが成り立つように制度やサービスを探し、手配すること。親の生活を支えるためにビジネス感覚でマネジメントを行い、体制を整えることです。

そのとき、仕事でアウトソーシングするのと同様に、ビジョンや課題、予算を把握したうえで介護を行う必要があります。

介護をマネジメントと捉えると、きょうだい間のトラブルや親との意見の相違も客観的に捉えられて、気持ちもラクになります。こうした視点は、同居介護にも役立つ考え方です。

また、別居の場合、日常的な関与がむずかしいため、子どもの価値観の押しつけにならずに、結果的に親の暮らしを尊重できる場合が多いと思います。そして、離れている時間で気持ちをリセットできたり、自分の暮らしも守れることは、大きな利点と言えるでしょう。

太田差惠子

太田差惠子 さん (おおた・さえこ)

介護・暮らしジャーナリスト

1993年頃より老親介護の現場を取材。『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)など著書多数。

『クロワッサン特別編集 介護の「困った」が消える本。』(2021年9月30日発売)

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