くらし

猫とたくさんの出会いがある町、山口恵以子さんが歩く、谷中。

  • 撮影・黒川ひろみ イラストレーション・黒木雅巳 文・黒澤 彩

谷中霊園(やなかれいえん)

桜並木も有名な歴史ある霊園は、猫たちの通り道にもなっている。
昼よりも夕方が狙い目だ。

「さっきの子、 どこに行ったかな?」

縦横無尽に走る猫。さっと現れてはすぐに姿を隠すので、ついていこうとすると迷子になってしまいそう。

「猫はずっと昔からここに住んでます。」

お墓の陰で涼んでいた黒猫を発見。猫は風の通り道を知り尽くしているよう。

じっとこちらをうかがう。近づいて怖がらせないようそっと撮影。

徳川慶喜(よしのぶ)の墓所の近くで出会った猫。谷中霊園には徳川家、大名家や近現代の著名人のお墓も多い。

墓地の一角にある天王寺の門にて。ひんやりした石畳に寝そべって気持ちよさそう。

根津(ねづ)・千駄木(せんだぎ)

猫好きの人々におなじみの喫茶店や、猫専門のギャラリーをお目当てに。

根津駅から近い喫茶店『ル・プリーべ』(台東区谷中1・2・16)は、猫たちを愛する石黒さん夫妻のお店。3匹の看板猫がいてタイミングがよければ猫と触れ合いつつ、本格コーヒーを味わえる。

「『ル・プリーべ』で 私たちに会えるよ。」

子猫の時に捨てられていたのを保護され、このお店に来たニーナちゃん。

人見知りのルンルン。お客さんがいるとご飯を食べないのだそう。

生後1カ月でここへもらわれてきたタモンくんは人懐っこい性格。

「谷中は猫のアートにもたくさん出合えます。」

猫をテーマにしたアートを展示する、千駄木の『ギャラリー猫町』(台東区谷中2・6・24)入り口には、陶製の白猫。

猫のまち谷中 (文・山口恵以子)

実は谷中の街は初めてだ。話には聞き、テレビでも何度も目にしたが、この足で歩くのは初体験。おまけに人生初の人力車体験(しかも看板猫を膝に載せて⁉)と、盛り沢山。

霊園、商店街、住宅街を巡って、谷中は「猫が暮らしやすい街」だとよく分った。あちこちで遭遇した猫たちは、誰(?)も人の姿を見て逃げ隠れしない。日頃から人間に友好的な扱いをされている証拠だろう。ひどい目に遭わされた猫は、決して人間に近づかない。

商店街で猫雑貨店を経営する小松崎さんは、世話している「ターちゃん」を紹介してくれ、「写真大丈夫ですか?」と尋ねると「大丈夫。ここら辺の猫はカメラ慣れしてるから」。

私は母が猫好きだったので、子供の頃から家には猫がいた。その頃は猫は単に「可愛いお友達」だったが、家族の平均年齢が七十に近づくと、猫は家庭の潤滑油、言い換えれば「鎹(かすがい)」だと気がついた。猫がいるから会話が続き、笑いが生まれる。七四歳要介護2で身体障害者一級の兄との二人暮らしは、猫なしではなり立たないと思う。

ご夫婦で発行している「ねこ新聞」という小さな新聞があった。そこの標語は「富国強猫」。民が富み、猫がのんびり暮らせる国作りを目指すという意味。私も大賛成だ。

谷中は私には験の良い街らしく、探していた「濱文様」の和柄ハンカチを売っているお店があった。早速四枚購入。地味に嬉しい。そして何と言っても一番印象深いのは、人力車猫の「ミーちゃん」だ。一時間以上私の膝に抱かれて、ピクリとも動かない。まさに、借りてきた猫! 偉い、ミーちゃん!

好きな人にしかしないという甘噛みをしてくれたので、多分嫌われてはいなかったようで、ホッとした。ミーちゃん、長生きしてね。

山口恵以子

山口恵以子 さん (やまぐち・えいこ)

作家

東京生まれにして、谷中を散策するのは今回が初めて。小説『食堂のおばちゃん』『婚活食堂』などの文庫オリジナルシリーズが好評。

『クロワッサン』1056号より

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