手相観の日笠雅水さんが語る。雄弁にメッセージを語るパーツ、「手」との向き合い方。
撮影・青木和義、内田紘倫(日笠さん) スタイリング・高島聖子 ヘア&メイク・木下庸子 モデル・樹神 構成と文・堀越和幸
手に表れる体調や心の状態。手はあなたを映す鏡です。
私たちは毎日鏡を見る。ああ、なんだか疲れているなあとか、今日は化粧のノリがよくないなあとか。鏡の中の自分の顔色を見ながら、自分を確認している。
「それと同じように、手を観ると今の自分がわかるんですよ」
と語るのは、手相観の日笠雅水さんだ。14歳の時に手相を観始めてから、日笠さんはこれまでにおよそ5万5千人の手を観てきたという。その数、東京ドーム1杯分といえばイメージが湧きやすいだろうか。
「手を観るというのは手相のことだけではありません。色ツヤや血色、ハリの具合、爪の状態。あるいは手指の姿勢にまでその人の今の状態が表れるんです」
手指に姿勢があるなんて! そんなことはこれまで考えたこともなかったけれど……。
「私はある国民的著名人をかれこれ30年くらいウォッチングしていますが、その時々のその方の気持ちは見事に手に表れていました」
人の心や体調が手でわかる。手相占いうんぬんを語る前に、そのちょっとした観方や考え方を、誰よりもたくさんの人の手を観てきたはずの日笠さんに教えてもらおう。
手は自分の身近な存在。手を労ることは自分を労ること。
手は働き者だ。玉ねぎの皮も剝けば、洗濯物を干してもくれる。子どもの頭を撫でる時もあれば、悲しい時には自分の涙だってぬぐってくれる。
「手を観ることで開運をしようと思ったなら、手を労ることも大切です」(日笠さん)
それなら、私は高級クリームを塗っているから大丈夫? いえいえ、そういうことだけではなくて。
「クリームを塗るのでも、手を労いながらしてみるといい。コロナ禍で何度も石鹼で手を洗い、消毒液にさらされているのに、皮もむけずによく頑張っているよねとか、こうして手を擦り合わせていると手のひらって温かいよな、とか心の中で語りかけてください」
その時あなたは手と向き合いながら、自分に向き合っている。
「究極的な言い方をすれば、生きていく上で一番大切なものは、私は自己愛だと思っています。よくしてくれるものを外に求めなくて済みますよね」
ずいぶんカサついているな。なんだか汗をかきやすくなってるぞ。自分の顔色は鏡を見ないとわからないけれど、手は自分の身近な存在、目の前にある。電車の中だって確認可能。手を観察して労ることは、自分に対してそうするのと同じ。開運の鍵がここにある。
右手と左手。意味と役割があること知ってましたか?
日笠さんによれば手は表に出た「脳」である、ともいわれている。どういうことか?
「脳で右脳と左脳の役割があるように、その働きが手ではクロスして出るのです。つまり、情緒や感覚を司る右脳の働きは左手に。論理や計算を司る左脳の働きは右手に。さらに、左手は内面や過去、右手は外面や未来を表すと考えます」
実際の手相ではそうした考えを基本に重層的に線を読んでいくが、ここではそんな難しいことはしない。
「右と左で手の形は同じでも線の流れが同じ人はいません。印象で構わないので、その違いを観察するのです」
たとえば左が複雑で右がはっきりしていたとする。左は過去で右は未来。ここでも心の対話を試みてみよう。
右手:左手は本当にこれまでよく頑張ったよね。今があるのは左のお陰よ。
左手:ありがとう。でもこれからを切り開くのは右手だよ。応援するから!
「物事には二面性があって、人間も同じです。時に反発しあったりしながらもバランスをとって前に進んでいく。右と左の両方を注目することで、自分の内面を照らすことができます。と、考えながら手を合わせてみましょう。ほら、心が落ち着きませんか?」
手と向き合えば、自分で運を切り開くことができる。
手が「脳」を表す一方で、自分の「ひな形」と見ることもできる。
「手のひらが大地だとしたら、そこには丘があったり盆地があったりと微妙な起伏があります。そして、そこを流れる川が手相の線だと考えてください。川には気が流れています。手相観はその流れ方に注目をしています」
たとえば前向きで気力のある時は川の水は滔々と流れている。反対に迷いがあったり、感情が安定してなかったりすると、線は薄くなったり、切れ切れになって現れる。
「気の流れなのでいつも同じではありません。ということは、たとえ線が停滞気味であっても、自分で改善することができるということです」
そして、線の持つ表情は人よって千差万別だ。一本気な人はハッキリとした線に、繊細な人は繊細な線に、複雑な人は線の現れ方も複雑だ。ただし、これについては、一概に、良い悪いで語る話ということではない。
「複雑な手相の人はそれだけ複雑な精神構造の持ち主と言えるでしょう。けれども、そういう人が例えば芸術関係の仕事をしたりすると逆に面白い結果を残せたりもするんです」
手に表れる本来の自分と今の自分。その声に耳を傾けてみよう。
『クロワッサン』1060号より