コロナを機に決心。Ed TSUWAKIさんの「見晴らしのいい」郊外の住まい。
撮影・今津聡子 文・長谷川未緒
都会を離れて何が大事なのか、俯瞰で見るように。
晴れた日には丹沢連峰や富士山が見渡せるこの部屋での日々は、太陽と共にあるのだそう。
「鳥の鳴き声で目が覚め、太陽に促されて起きる感じです。街にいたころはひとが寝静まった深夜にウォーキングしたりしていましたが、今は夜になると眠くなります」
外食中心だったが、最近はほぼ自分で作る。人生で初めて、冷蔵庫に直売所やスーパーで買い求めた野菜や干物などのストックがある毎日は、本人曰く、「人間らしい暮らし(笑)」。
「友人たちは概ね興味津々みたいです。月に何組かですけれど、車や電車を乗り継いで遊びに来ます。ランチして、近隣を散策して、わが家で日が暮れるまでのんびりして帰っていきます。昼寝しに来るひともいます(笑)」
郊外に越したことで、時間とエネルギーを使ってでも行きたい場所、見たいもの、会いたいひと、それらの取捨選択の基準がよりいっそうクリアになってきた。
「ロマンティックな出会いとはどんどん無縁になってきていますが(笑)、とはいえ、ずっと前から都心での暮らしには少し疲弊してたかもしれません。
ノイズのように押し寄せてくる情報を意識的に遮断するようになったのは2000年代に入るころだったかな……実はそのころに縁があって信州のあるところに広い土地を見つけていたんだけど、仕事上のライフラインになるようなインフラがまだ整っていなくて断念しました。気持ちは強かったんだけど、機が熟していなかったんでしょう」
20年ほど前には実行まで至らなかった移住計画。その後は様々な出来事に忙殺されて、住み慣れた街での暮らしを享受してきたのだが、越して来てから、それに少々煮詰まっていたことに気がついた。
かつて名随筆家が愛したこの土地での毎日は、旅をしているような、非日常が続いている感覚だ。好奇心のおもむくままに歩き、偶然見つけたお気に入りの草原や、地元の人も知らないような里山を独り占めしたりして、贅沢な時間を過ごしている。
「去年の夏に越してきて秋と冬を過ごし、はじめての春を迎えました。窓外に聞こえるウグイスのさえずりや、わずか1週間ほどで新緑がもりもり茂っていく様子など、四季の移ろいをリアルに感じています」
結果的にはコロナに背中を押されたことになる。そして、この地に巡り合った。後先のことは考えていなかったが、これまで以上に大切なひとたちや出来事との繋がりを大事に考えるようになってきた。
「この土地にやって来たのはたまたまだったのかもしれないけれど、今は呼ばれて来たような縁も感じています。最近ロンドンの知人からの便りに、一都集中から地方分散化が急激に進み、田舎町が活気づいてきて、ちょっと展開が楽しみ、とあった。こちらも負けじと五感を研ぎ澄まして、この場所から“揺らして”いきたいですね」
『クロワッサン』1046号より