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【紫原明子のお悩み相談】どうしたら人付き合いを楽しめますか。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが、読者のお悩みに答える連載。今回は周りのママの輪に入れずに悲しい気持ちを抱えている女性からの相談です。

<お悩み>

今、すやすやと眠る娘を隣で見ながら涙が止まらなくなり、どこかにこの気持ちを吐き出したく投稿させていただきました。 私はとにかく人付き合いが苦手です。飲み会やご飯に数人で行くと、ポツンと1人だけ会話に入らないようなタイプです。 そんな人付き合いが苦手な私でも、子育てで子どもと家で2人きりという生活は退屈で、毎日支援センターやベビーマッサージ、ベビーヨガなどいろいろなところにお出かけするのですが、そこで出会うママさんたちみんなお話が上手で会話にすんなり入っていき、また私だけ会話に入れず、、、ここぞというときに会話に加わるのが精一杯。家に帰ってくるとぐったりです。軽くおしゃべり程度なら楽しめるのですが、みんなでランチとなるととっても疲れます。 他のママさんたちは優しい人ばかりで私に会話を振ってくれたりしているのに、うまくやれない自分が情けないです。 娘は私とは違い、周りの人にニコニコ笑いかけ、その場を楽しんでいるように見えます。旦那に似たのでしょうか。今日も娘はせっかく楽しんでいるのに、ママは疲れちゃって他のママさんたちより先に帰宅。こんなママでごめんね。 どうしたら人との付き合いを気楽に楽しめるようになるでしょうか。

(はるうらら/女性/保育士(育休中) 7ヶ月の娘を育てる20代ママです。)

紫原明子さんの回答

はるうららさん、こんにちは。お手紙を書いてくださりありがとうございます。

実はこのお悩み相談の連載は今回が最終回です。まだまだお答えできていないお悩みがたくさん残っている中で終わってしまうことは本当に心苦しいのですが、やむを得ないことでもあり、最後は一体どなたにお返事を書くべきかと、さっきからいただいたお手紙を前に頭を抱えていました。そんな中で目に留まったはるうららさんのお手紙を読むと、なんと今まさに涙を流していらっしゃるということ。これは大変だ。すぐにでもお返事しなければと思いました。

この連載の中でももう何度か書いているような気もしますが、私が最初の子を産んだのは19歳のときでした。私は幼少期から異様に落ち着きのある子供ではあったけれども、とはいえ産んだ当時は高校を卒業してすぐで、落ち着きはあっても世の中のことを何も知らない、何もできない未成年であることには代わりなく、親になったというのに未熟なままの自分が情けなくて、はるうららさんと同じように、よく泣いていました。特に誰かに何をいわれたというわけでもないのに、勝手に世の中は敵ばかりだと思い込んでもいました。どこに行っても若く産んだ浅はかな母親と後ろ指差されるような気がして、支援センターや公園など、人がたくさん集まるような場所にはほとんど行きませんでした。だから、産んでからしばらくはほとんどママ友もいなかったんです。折しも当時はかつての夫の仕事がどんどんうまく行き始めていた頃で、ミーハー心から人工島にそびえ立つタワーマンションの上の方に住んでいました。ただ地上に降りるにもエレベーターで数分かかる上に、降りても周辺は無機質なコンクリートジャングル。日に日に気軽に外に出るということをしなくなって、気づけば平日はほとんど子供と二人、塔の上のラプンツェルさながら幽閉状態でした。

そんな私がようやく人付き合いを楽しめるようになったのは、やはりかつての夫の仕事の都合で地元福岡を離れ、家族で東京に出てきてからのことでした。たまたまマンションでお隣に住んでいた、二人の子を持つお母さんが、越してきたばかりでまるで土地勘のない私のために、いろんな場所を案内してくれたのです。彼女は当時の私にとって、突然目の前に降臨した神のようにありがたい存在でした。ひとまわり近く歳が離れている私にあれこれ世話を焼いてくれて、何かあれば子供を預かってくれたりもして。どうしてこんなに親切なんだろうと不思議に思っていると、少し経ってその理由がわかりました。実は彼女ももともと東京の外に住んでいて、やはりずいぶん若くして一人目の子供を産んで、産んでから東京に引っ越してきた人だったのです。夫は例によって仕事でほとんど家を空けていて、新しい土地で私と同じように、右も左もわからず途方に暮れた経験があった。だからこそ私に、かつて彼女が他の人にしてもらったのと同じことをしてくれていたのでした。

一見、街のことを知り尽くした頼もしい先輩ママである彼女にも、過去にはそんな経験があったことを知って、私は驚きました。いやよく考えてみれば、自分以外の人にもいろんな事情があるはずで、あって当然なはずのですが、私はおかしなことにそのときまで、まるでそれに気がつかずにいたのです。

大人の社会では何でも卒なくこなせることが良いこととされているから、私たちは普段、その慣習に従って、たとえ何か問題があったとしても、あたかも何も問題がないかのように装います。道に迷ったり、電車の切符の買い方が分からなかったり、役所から届いた書類の言葉がさっぱり理解できなかったとしても、「ギャーーッ!!まるで分からないーーーっ!!」と誰が見てもわかるほど露骨に発狂したりなどせず、涼しい顔してスマホで調べたり、もう30分も同じところを歩き回っているのに、あたかもその日初めてその道を通る人かのような自分を演じ続けたりします。みんながみんなそうで、だからこそはるうららさんもまた、自分だけが人付き合いに疲れ、方や周りのママたちはとても上手にコミュニケーションを取っているかのように感じられるかもしれません。だけどよく考えたら、はるうららさんがお母さんになって7ヶ月目であるのと同じように、周りのお母さんたちだって、お母さんになったばかりの人たちなんですよね。平気な顔を見せていても、内心では新しく始まったママ友付き合いに悩んでいたり、慣れない子育てに苦労したりしていたってちっともおかしくないのです。

私はこの連載を持ったおかげで、とても大事なことに気がつきました。世の大人たちは、どんなに表面上立派な大人を装っていたとしても、本当はみんな人知れず、色んなことに物凄く悩んでいるのです。事実このお悩み相談にも、ママ友とうまく付き合えないというお悩みはたくさん届きました。人の輪の中にいながら、自分だけがどうしてうまくやれないのだろうと思い悩む。そういう人が、本当はたくさんいるのです。こうなると最早、自分は人付き合いがうまい!と感じている人が、果たして実在するのかどうかも疑わしいです。

もしよければはるうららさんには一度、うまくやろうと頑張る気持ちを一旦脇に置いて、周りの人たちをよーく観察してみていただきたいのです。そうするともしかしたら、一見うまくやれているように見える人たちも、実は物凄く気を張ってその場にいることがわかるかもしれません。はるうららさんと同じように、家に帰ってぐったりしていそうな人が見つかるかもしれません。

世の中は大人に大人らしい振る舞いを強いるし、頑張り屋さんの私たちはそれに応えようと一生懸命自分のことばかり考えます。そんな中ではついうっかり、周りの人にもそれぞれの悩みや事情があることが見えなくなってしまいます。周りには霧がかかり、自分だけを鮮明に見ている限り、自分の世界には自分ひとりで、私たちはいつまでたっても孤独です。涙が出てしまうほどの孤独から逃れるためには、孤独な自分だけを見るのでなく、自分の周りにいる人にもしっかりと目を向けることだと私は思います。そこにはきっと、誰かがよく見てあげなければ気づいてもらえない本当は不器用な誰か、情けない誰か、不甲斐ない誰かが大勢いて、その人たちももしかしたら、はるうららさんと同じように、家では涙を流しているかもしれないのです。

だからどうか、そんな人たちを見つけてあげてください。そしてふとしたときに、頑張り過ぎている誰かに、“大丈夫、あなたはあなたのままでいいよ”と言ってあげてください。会話の中でテンポよく気の利いた言葉を返せることより、輪の中心でい続けることより、たった一度でも、はるうららさんが今、一番必要としている言葉を自分以外の誰かにかけてあげること。そうすることできっと、気がつけばはるうららさんご自身も、辛く苦しい寂しさの底から抜け出すことができると、私は思います。

イラスト:わかる
イラスト:わかる
  • 紫原明子

    紫原明子 (しはらあきこ)

    1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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