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【紫原明子のお悩み相談】彼女に結婚の意志があるのか知りたいです。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが、読者のお悩みに答える連載。今回はお付き合いをしている彼女が自分と同じように結婚を望んでいてほしいと考える学生からの相談です。

<お悩み>

彼女に自分と結婚する意思があるのか知りたく、悩んでいます。私は現在大学院の1年生で、彼女は大学3年生です。

学生までの恋愛では結婚を想定しながらお付き合いをするということはほとんどないと思います。ただ、その逆のパターンで、「このひととはそのうち別れるとは思うけど今は付き合っておこう」という人は一定数いると思うし、実際にそのような話も聞きます。 私自身、絶対にこの人と結婚する、と言い切ることはできませんが、現時点ではずっと別れたくないなと思っています。

そして、もし彼女が「このひととはそのうち別れるとは思う」と考えていたら嫌だな、と思います。ですが、「これからも別れないよね?」というニュアンスの質問をしてももちろん「うん、別れるつもりはないよ」といった内容の返答を多くの人はするでしょうし、「結婚できる?」と聞くのは学生ということもあり”重い”でしょう。 そのため、彼女が「このひととはそのうち別れるとは思う」と考えてなければいいなと思いつつ、そのような学生は多いので常に少し不安です。何かご意見いただけますと嬉しいです。

(あーる/男性/大学院生1年生)

紫原明子さんの回答

あーるさんこんにちは。感情理解の解像度が高過ぎてもはやデータ分析のようになってますね! どことなく小説家・遠野遥さんの芥川賞受賞作『破局』の続編を読ませていただいているような、ぐいぐい引き込まれるお手紙をありがとうございます(未読ならぜひ読んでみてください)。

さてあーるさんは彼女に結婚の意思があるかどうかを知りたいということですが、読み進めていくと、なにも絶対に結婚をしたいということではなく、彼女がそのうち別れるだろうと思っていないかが不安、ということなんですね。“今は”別れたくない、ではなく“これからもずっと”別れたくない、と思っていてほしい。その切実さが自分と同程度であってほしいし、果たしてそうなのかを確認したい。今回のお悩みはおそらくそういうことなのだろうと私は理解しました。

お互いの思いの気持ちを確かめ合う目的で交わされる「将来結婚しようね」「子供の名前は何にする?」といった会話は、恋人たちの間では古よりお馴染みのものであり、何を隠そう私も過去に再三にわたりやってきました。またそのうちの一人とは結果として本当に結婚をし、予告通り子供を持ちました。けれどもその後いろいろあって離婚し、今その相手とはたまに酒場でばったり会う程度で、当初の思惑通りずっと一緒にいることは叶いませんでした。しかしそうはいっても、結婚を決めるまでや結婚してからしばらくの間、この人とはずっと一緒にいたい、ずっと別れないだろうと思っていたのは紛れもない事実です。いずれ別れるだろうと思っていたから別れたわけではなく、できることなら別れたくないと確かに思っていたのです。にもかかわらず一つ、また一つと以前なら噛み合っていた歯車が噛み合わなくなり、どう頑張って抵抗しても、おそらくもう二度と以前のように、黙っていても気持ちよく噛み合うことはないのだろうと思ったときに、別れることを決意しました。

そんなことを考えると、一緒にいたときよりも別れるときのほうが、よほど未来を見据えた強い意志を必要としました。一緒にいるときに原動力となっていたのは意志ではなくむしろ欲望や好奇心で、刺激的で、楽しくて、幸せな今しか見えていませんでした。先々ずっと一緒にいたいという強い意志で一緒にいたのでなく、今一緒にいたいから一緒にいる、そんな今がたまたま連続して起きていただけだったのです。

そんなわけなので、あーるさんの今回の質問について私は「今、一緒にいたい」「今、別れたくない」それ以上に何かが必要なのか、そこがよくわからないのです。今、特段一緒にいる必要もない二人がわざわざ時間もお金も労力も余分に費やして一緒にいるわけです。それだけのことができるというのは少なくとも今彼女が、あーるさんと一緒にいたいと思っているからでしょう。

あるいは、今現在のあーるさんと一緒にいることで彼女が得られる特別なメリットが何かあるということであればもちろん話は別です。たとえば、新型コロナウィルスの特効薬を世界に先駆けてあーるさんだけが持っているとか、あるいはGQのMen of the yearに選ばれて一躍時の人になっているとか……。このように一時的にあーるさんの時価総額がストップ高状態になっているとしたら、それならたしかに先々のことを考えて不安になるかもしれません。が、万が一そうであったとしても、特典につられてやってきて、株価下落とともに去っていくような恋人は追わなくてもいいんじゃないですかね。

またそもそも、彼女の言動や雰囲気に、あーるさんと一緒にいることを楽しんでいないような、つまらなそうな様子が垣間見えるのであれば、それについてもやはり未来の問題というより、たった今の、二人の関係性の中に生じている問題である可能性が高く、それなら具体的な状況を加筆の上別途お手紙をください。何かしら改善の余地があるかもしれません。

で、これらいずれのパターンにも該当せず、「これからもずっと一緒にいる?」とあーるさんが問いかけたとして、「これからもずっと一緒にいたい」と、少なくとも今彼女が答えてくれると信じられるのであれば、果たして何がそれ以上に必要か、ということを、よろしければぜひ考えてみてください。

これからもずっと一緒にいようね、を互いが切実に望んでいたとしても、私達が望む望まないに関わらず置かれる状況は変わるし、状況が変わると自ずと気持ちも変わります。二人が時間とともに変わっていくことからはどうしたって逃れられないし、変わらなかったとしてそれはそれでつまらないじゃないですか。だから、仮になんらかの方法で彼女の意志を確認したところで、それはただ、今彼女の中にある意志であることには変わりなく、極論を言えば、あーるさんが不安から逃れられることはないと思うのです。

だったらむしろ、不安をガソリンにしたら良いじゃないかと私は思います。本当に彼女のことが大切で、彼女の気持ちが分からなくて不安になるほどずっと一緒にいたいと望むのであれば、良好な今を、明日も、明後日も続けられるように、不安をガソリンにして、今を良くし続ける努力をしたら良いと思います。あらゆる関係性はナマモノなので、慢心すると簡単に腐ってしまいます。いや、厳密に言うと努力をしたって腐るときには腐るわけですが、しないよりはした方がきっと長持ちします。先々絶対に腐らないという当てにならない約束を交わすより、今、腐らせない努力を長く続けていくこと、それしかないだろうと、私は思うんです。

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イラスト:わかる
紫原明子

紫原明子 (しはらあきこ)

1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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